「BUTTER」を読み終えた。
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本屋でぷらっと購入。
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美しい、美しくない以前に彼女は痩せていなかったのだ。このことで女達は激しく動揺し、男たちは異常なまでの嫌悪感と憎しみを露わにした。女は瘦せていなければお話にならない、と物心ついた時から誰もが社会にすり込まれている。ダイエットをせず太ったままで生きていくという選択は女性にとって相当な覚悟を必要とするだろう。それは何かをあきらめ、同時に何かを身につけることを要求される。
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判で押したように誰もが、クラシックで上品かつ濃厚な味わいを絶賛している。だが、誰かの借り物の表現では駄目なのだ。人の評価で分かった気になるべきではない。自分の舌で感じたことを、自分の言葉で伝えなければなんの意味もないのだ。
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誰かを欲情させるのはすごく楽しい。それが男であれ、女であれ。
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「あなた、一体何のために痩せるんですか。男性の目を気にして?それなら心配ないわ。男性は本来、ふくよかで豊満な女性が好きです。男性といっても、精神的に大人で裕福でゆとりのある本物の男性という意味ですが。痩せた子供のような女性が好きだという男性は自分に自信がなく、例外なく卑屈で、性的にも精神的にも成熟しておらず金銭面でも余裕がない方が多いんです」
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グルメというのは基本的に求道者だと思う。優雅な言葉でいくら包もうと挑戦と発見を繰り返しながら彼らは己の欲望に日々、真正面から向き合っている。
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具材は胡麻と青ネギだけという潔よさ。きっちりと四角いバターが二つ、澄んだスープにだらしなく姿を崩し始めていた。その奥には黄身の強いちぢれ麵が沈んでいる。スープに溶けたバターは黄金色の円をいくつも浮かべていた。円に麺をわざとくぐらせるようにして口に運んでいく。ややかんすいの味が強いものの、嚙み応えのある茹で加減が悪くない。スープをすする。鶏ベースの淡泊な味わいに遠くでかつおの風味も漂う。熱い汁が乾きすぎて痛いくらいの喉を潤しながら落ちていく。
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すべて女側が悪いのだ。性犯罪が起きるのは、女達がひらひらと思わせぶりに舞うくせに何も差し出さないから。内気で心優しいうまく気持ちを伝えることができない異性がパートナーに恵まれず、日本の人口がどんどん減るのは、すべて男を外見や金でしか判断しない女のせい。すべて女がいけないのだ。女が折れればすべてうまく収まるのに。女が男と同じような人間であり女神ではないから、この世界はこんなに暗いのだ。でも自分は違う。私ひとりだけは違う。私だけは女神だ。光り輝く女神だ。
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どんな境遇であれ、少しでも快適にしようとする女の知恵、自分好みに環境をカスタマイズできる女の逞しさを保守的な男ほど疎んじるものだ。でも、それこそが彼らが女に何よりも求める家事能力の核に他ならない。どうしてその矛盾に気付かないのだろう。家庭的な女でさえあれば、自分たちを凌駕する能力を持たない、言いなりになりやすい、とどうして決めつけているのだろう。家事ほど、才能とエゴイズムとある種の凶器が必要な分野はないというのに。
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「料理って楽しいけど義務になった瞬間、つまらなくなるでしょう?セックスとかおしゃれとか美容とかもそう。人から強制されたらなんでも仕事になって、楽しさなんて消えてしまうでしょう?」
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私は世間には男好きだと思われていますが、男の身体のことばかり考えているの好色で下品な女などではありません。むしろ、女が大嫌いなだけなのです。婚活で知り合った多くの男性が甘えん坊で依存心が強いことは私も認めますが、女の掴みどころの無い態度やこちらを圧するような獰猛さ、主張がコロコロ変わっていく不気味さに比べれば私には耐えられることです。
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この人はしたいことも、言いたいこともひょっとすると何もないのかもしれない。ただ、その場をしのいでいるうちに本人の意思とは関係なくここに流れ着いただけなのかもしれない。自分では何も決定せず、世間一般でよいとされる価値観に手を伸ばしただけなのではないか。その証拠に彼女が求めてきたものはすべて高い値段が付けられている。
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以上引用です
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木嶋佳苗の首都圏連続不審死事件をベースにしたお話。
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ウィキペディアによると、現在彼女は死刑囚(死刑確定者)として東京拘置所に収監されているようだ。
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何よりこの事件を際立たせているのは、連続不審死以上のルッキズムだろう。
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正義感という名の嫉妬、羨望がぐちゃぐちゃに入り混じったドス黒い感情を抱いた人もいるんじゃないかな。
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事実はひとまず置いといて、印象に残ったのは例えブスでも、失恋しても、親子関係が最悪でもしなやかに生きていく強さ、女性の逞しさだ。
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修復不可能なほど仲たがいしても里佳は伶子をあきらめないし、自尊心がズタズタでみっともなくてもお互いに助け合う。
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きっと自分ならとっくに一人ぼっち(笑)
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個人的に女性が男性よりも長生きする大きな理由のひとつは、この辺のずば抜けたコミュニケーション能力だと思っている。シスターフッドを超えたウーマンフッドみたいな。
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その人を繋げる重要な役割を果たしているのが食事だ。バター料理の数々が、人間関係までも滑らかでコクのある、ドロドロなものに仕上げてくれる。
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食に対する異常なまでの執着は、悪いことではないと思う。一方で、高価なものしか受け付けないのはなんとも滑稽だ。
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それこそ味音痴の証左だろうに。
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何事においても、人生の適量を見つけられるといいね。
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