「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」を読み終えた。
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著者は文化人類学者で、この人の本は初めて読んだ。
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ブルシットジョブとは
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「その仕事にあたる本人が、無意味であり、不必要であり、有害であると考える業務から、主要ないし完全に構成された仕事である。それらが消え去ったとしてもなんの影響もないような仕事であり、その仕事に就業している本人が存在しないほうがましだと感じている仕事」だそうだ。
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オラ、なんだかワクワクしたきたぞ(笑)
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あなたの仕事は「世の中に意味のある貢献をしていますか?」という質問に対しては、おどろくべきことに3分の以上、37%がしていないと回答したのである(一方していると回答したのは50%)
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最悪の拷問とは誰の目にも意味のない作業をいつ果てるともなく強制することである。例えば、水を一つの桶から他の桶へ移しまたそれを元に戻すとか、砂を搗くとか、土の山を一つの場所から他の場所へ移し、またそれを元へ戻すとかいう作業だ。
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富のピラミッドのまさに絶頂では、極限の贅沢とどうしようもないガラクタのあいだにほとんど区別がなくなる。黄金がしばしば夢の中で糞便という正反対のものに象徴されることには理由があるのだ。
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性産業のおけるサービスの提供者とサービスの受益者の相互の軽蔑の度合いは、たいていぼったくりのブティックに予想されるそれよりもはるかに強力である。
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取り巻き(フランキー)の仕事とは、誰かを偉そうに見せたり、誰かに偉そうな気分を味わわせるというただそれだけのために存在している仕事のことである。
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われわれはまた、TV番組やミュージックビデオの仕事もします。シャンプーのコマーシャルでは、枝毛を塗りつぶし髪の艶を強調しますし、人間をスリムにみせるデフォルメ用の特殊なツールがあります。われわれは視聴者が番組本編をみているあいだは自分たちに欠陥があるように思わせ、CM時間にはその解決策の効能を誇張してみせるのです。
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ほとんどの産業では供給が需要をはるかに上回っていて、それゆえいまや需要が人工的に作り出されるのです。わたしの仕事は需要を捏造し、そして商品の性能を誇張してその需要にうってつけであるようにみせることです。
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常識に反することを他者にやらせようと説得するため、自らの良心に反する行いを強いられること、これほど不快なものはそうない。
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尻ぬぐい(ダクトテーパー)とは、屋根に雨漏りを発見したのに屋根の葺替業者を雇うのは費用がかかるからと、かわりに穴の下にバケツを置いて定期的に水を捨てに行くフルタイムの従業員を雇っているようなものなのだ。
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労働者の時間は労働者自身のものではない。それを買った人間のものである。雇われ人が働いていないとするなら、その人間は雇い主が高い金を支払って得たはずのなにかを盗んでいるのだ。この道徳の論理に従えば怠惰はトラブルの種ではない。怠惰とは盗みなのである。
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勤務時間内には効率を上げすぎてはならない。ぞんざいに感謝されることすらないのだから。それどころか罰として時間つぶしの無意味な仕事を課せられることもあるのだ。また働くふりを強いられるのは、ほとんど絶対的な屈辱であることもわたしは知った。なぜなら、やってもいないことをやってるふりをするのは不可能だからだ。
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われわれは仕事をするふりをし、かれらは給料を支払うふりをする。
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[スノウフレイク世代] ミレニアル世代に対して用いられる侮辱的表現。自分を特別と勘違いしている人間、キレやすい脆弱な人間という意味を帯びる。
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世論調査はいつも、およそ3分の2のアメリカ人が国民皆健康保険制度に賛成していることを示している。ところがその世論に即している主要政党は存在しない。世論調査はまたほとんどのイギリス人が死刑の復活に賛成していることを示している。ところがそれに応じる主要政党は存在しない。
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[ボラントールド] 上司や組織の命令でいやいやボランティアの従事すること(volunteer + told)
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マネジリアルなヒエラルキー世界を構成るすのは、企業世界のジャーゴンこそ雄弁に操るものの、管理対象である業務の直接的経験は乏しいか、本来なすべきことを忘れるために全力をつくしてあらゆることをやるややこしい肩書きをもった男女である。
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アイルランドで銀行ストライキが起きたとき、経済はすぐに停止するだろうというストライキのオーガナイザーの予想に反して日常生活にはなんの変化も無かった。一方でニューヨークでゴミ収集に従事する人たちがストライキを行うとたった10日で街が居住不可能になった。
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他者のためになる労働であればあるほど、受け取る報酬がより少なくなる。
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多くの人々が、子供のケアのような有用でありかつ重要な仕事をやるか(他人を助けることで得られる満足感それ自体が見返りであり、それ以上の報酬は期待すべきではないと説教されつつ)あるいは無意味であり自尊心を傷つけられる仕事を受け入れるか(原因はなんであれ心身ともに破壊するような労働に就かない人間は生きるに値しないという浸透し感覚以外にとくに理由もなく、心身を破壊されつつ)選択を迫られている。
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労働の価値は生産するモノにあるとか他者に供与する便益にあるとはみなされなくなるのにともない、労働の主要な価値はますます自己犠牲にあるとみなされるようになる。
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自分たちがどれほど過重に働いているかを誇ることによって日々自分の存在を証明しなければならないという感覚をもたない人びとでさえ、仕事から逃避している人間は死んだほうがよいという意見には同意するだろう。
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[善行信号 virtue signaling] SNS上などで自らのモラルや社会的な意識の高さをこれ見よがしに投稿するといったようなニュアンスを持ち、そういった風潮の揶揄的な表現。
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「リベラル・エリート」とは、お金を稼ぐこと以外の目的をもって活動してもお金を稼ぐことができる地位に実質的に組み込まれている人びとである。
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忙しく働いている人々には、その仕事が完全に無益な仕事であったとしても、なにかほかのことに取り組むための十分な時間はない。少なくとも、これが現在の状況に対してなにも手をつけないことへのさらなる動機づけである。
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エッセンシャル・ワーカーはいま、さかんにもてはやされている。しかし、かれらの劣悪な労働条件は変わらないだろうし今後も同じであろう。その理由のひとつは、かれらがその力を行使して、自らの待遇の改善を求めるべくストライキを行ってしまえば世界そのものが維持できなくなるからである。ブルシットな高級取りはいくらでも休もうがなんの変化もないわけだが。
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以上引用です
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感想は・・・分厚いが読むしかない!
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雇われたことがある人全員に読んで欲しい、そんな本だ。
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まず自分のスーパーのアルバイトはどうだろうと考えてみた。悲しいが、ブルシットではないにしてもシットジョブなのは間違いないだろう。時給制の肉体労働で誰もやりたがらない仕事だ(笑)
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もう少し引用すると
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わたしたちの社会ときたら、労働の社会的価値がその経済的価値に対して反比例している(仕事が他者のためになればなるほど、その仕事への対価は下がっていく傾向にある)のみならず、多数の人々がこの状況を道徳的に正しいと受け入れるようになるというところにまで来ている。
つまり、無益で破壊的でさえあるふるまいには報酬を、世界をよりよくするために日々労働している人々には罰を与えるべしというわけなのだ。
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今ちょうど Japan Times Alpha で聖書の記事を読んでいる。聖書では労働とは「神の命令に背いた罰」とされているんだよね。
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更に引用すると
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徳はそれみずからが報いである(いいことをしたらそれ自体が報酬であり、それ以上の対価は不要である)社会に便益をもたらす人間は多くの報酬を受けてはならぬという考え方は倒錯した平等主義とすらいえるかもしれない。
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つまるところ、労働者本人のいわゆる「使命感、義務感」でその「罰」が成り立っている部分が大きいのかなと。そして最後の砦であるその成り立ちすら崩壊しかけているのが今だろう。
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誰もが人の役に立つ仕事に正当な対価を払う事には同意するだろうし、誰もが霞を食べては生きていけない。
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職業に貴賤はあるのだ。
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ちなみに「仕事が発生している以上、無駄な仕事などありえない」という机上の経済学を「千円札が落ちていることはあり得ない、必ず誰かが先に拾っているから」と同じくらいに面白おかしくぶったぎっている。
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著者は自らアナーキストと名乗っているだけあって、国家の富の再分配のやり方を辛辣に批判している。
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つぎはぎだらけのパッチワークを当てるならいっそのこと解体すべきだと、いわゆる反国家主義者だ。そしてUBI(Universal Basic Income)の支持者でもある。
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今の経済は「余剰の獲得」に過ぎないそうだ。確かにそう思う。ただ、資本主義体制で余剰の獲得戦争が終わる事は無いだろうな。
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タイトルはブルシットだが、中身は決して「労働は無駄で無意味、ラクして稼ごう」みたいな薄っぺらいブルシット情報商材ではない。
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時間が無い人は訳者あとがきだけでも読む価値はあるだろう。とてもまとめきれないので全部じっくりと読んでみてほしい。もう疲れた(笑)
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必ず「分かる!」という箇所があると思う。
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大変面白い本です。興味のある方はどうぞー
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