[26] ハイリさんとの残業を先に読むと、生臭さ、えぐ味もなくファッティーな広がりが醸成されてより一層美味しく頂けます。
.
.
■
.
自分はこの日23時までのシフトだった。店内にある大きな時計に目をやると奴隷解放宣言まであと5分くらいだ。ハイリさんのほうは指示された作業が終わる気配はなさそうで、小さな体を動かし続けている。
.
かなり疲れているようだ。
.
まだ若いのもあって「死んだ魚の目」とまではいかないが、その様はパラメータに「どく」と「まひ」が追加されたような面持ちで、明らかに画面表示が白から赤に変わっている。
.
.
ハ 「自分さん・・・今日残業できますか?」
自 「は、はい」
.
.
はっきりいって残業なんかしたくはない。毎日昼寝をしてヨダレをたらして、益坂美亜ちゃんでも見ていたいぐうたら人間だ。
.
それでも、アルバイトの自分が見ても尋常じゃない仕事量を文句ひとつ言わず、不条理で理不尽なこの社会でがんばっている姿を見せられて「できません」と答えるほどまだ人間が腐っていなかったようだ。
.
もう一度言うが根はまじめなのだ(笑)
.
あとハイリさんからしたら、自分は年上で男性とあって残業のお願いもなかなか切り出しにくかっただろう。
.
■
.
とうとう午前0時を回った。店内の照明は落とされてところどころ暗くなり残っている人もまばらだ。どこまでやっても終わりが見えないゼビウスやイーアルカンフーのようだ。Ⅱーコンのマイクで叫びたくなる(笑)
.
バックヤードに戻ったときに、中で作業をしていたハイリさんが堰を切ったように喋りだした。
.
.
ハ 「まだあの作業も終わってないし、この変更も終わってないんです。それから ~ 」
自 「・・・」
ハ 「明日は朝から・・・」
自 「・・・きょ、今日はもう無理じゃないっすかね」
ハ 「・・・」
自 「・・・がんばったと思います」
.
.
驚いた。普段こんな早口で、感情を上乗せして喋らないことからも焦っているのが痛いほど伝わってくる。相手は社員だし、自分は口下手なんでなんて答えるのがいいか分からなかったが、自然に出てきた言葉を話した。
.
自分は基本的に4時間だけの勤務なんでまだいい。でもハイリさんはこの日13時からの勤務で、すでに11時間以上経っている。明らかにオーバーワークだ(このときちょうど「残業学」という本を読んでいたんで、残業は集中して感染するということを身を持って知った)
.
.
■
.
最後に言いかけたのは「明日は朝からセールだし」と思っていたが、今思えば本当は「明日は朝からチワワさんだし」と言いたかったんだろう。
.
おそらく店の売り上げうんぬんより「引き継ぎが恐怖」なのだ。
この日終わったのは午前0時半だった。
.
.
コメント