「スター」を読み終えた。
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朝井リョウさんの10周年記念作品の一つ、スターを読んだ。
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シッピングカートに入れたまま中々読めていなかった本でようやく購入して読めた。もう一つの「正欲」は以前に読んでいる。
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幼少期に抱いていた興味関心から遠く離れた領域で日々の仕事をこなしている同級生を見ていると、かつて好きだったものをそのまま操り続けている自分がひどく幼い子どものように思えてくる。
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「みんな、Youtuber になったんですよ」
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「いい映画一本観るよりグダグダの生配信観てる方がラクなんですよねー」
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いま目の前にあるものが世に出ることができて、自分の作品はそうなれない理由はなんなのだろう。ここに並んでいるものの中には、きっと、自分が作るものより質の低いものだって一つや二つあるはず、いや、もしかしたらほとんどがそうなのではないだろうか。
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俺たちは世に出られるハードルが高くて、だからこそ高品質である可能性も高くてそのためには有料で提供するしかなくて、ゆえに拡散もされにくい。大土井君は、世に出られるハードルが低くて、つまり低品質の可能性も高くてだけど無料で提供できるからガンガン世の中に拡散されていく。
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ないものを、あるように見せることがうまい奴らがどんどん先へ行く。
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まず完全に、質より量。面白いかどうかより毎日顔見せてるかが大事。いかに視聴者の毎日にあるスキマ時間に滑り込むか、ここが勝負なんだよな。内容は Youtube 内で流行ってることを何でもいいからとにかく真似でいい、あとはバズり待ち。本当に面白いことをやってる奴はごく一部。大体はこっちのケースだな。
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俺、分かったんだ。今の時代、百万人の世間が断罪しても十万人の信者がいればその中で生きられる。どんなに非道な行為でも大勢の人前でやればそれはパフォーマンスになってファンがつく。どれだけ炎上したとしても、情報量が多い今すぐに全部が有耶無耶になる。どこもかしこも埋め立て地。都合よく上書きし放題だ。
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彼女の一連の動きを文章にするとき、文字に表出する部分だけを美味しく舐め取ったどこかの誰かが彼女をまた新たな地平へ連れて行くのだ。こういう新世代の人材を知っている、ということを自分の肥料にしたいだけの誰かが。
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誰でも発信できるプラットフォームに広告がついたのって、私からすると結構怖いんだよね。影響力と金銭がイコールで結びつくって大丈夫なんだったっけって思ったり思わなかったり。
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確かに、誰でもどんなことでも発信できるようになったのはすごいことだと思うよ。古いしきたりやルールがなくなって既得権益が揺るがされて爽快ですらある。でもそれって、誰からもどんなことも受信しちゃうってことなんだよね。発信はすっごく多様化して誰でも色んな方法を学べるけど受信するときに気をつけるべきことって全然学べない。古いルールはなくなったけど、新しいルールは追いついていない。
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この世界は濁流だ。ほんの数分で、画面を流れていくサムネイルは様変わりする。人気の動画が生まれては、すぐにどこかに流されていく。
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ものを作るときに、いろんなことの妥協点を探り合うんじゃなくて、質を高めることしか考えなくていって本当に特別な人にしか許されないことなんだって実感したよ。
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限定っていう言葉の中に自分が入っていることとか、一日二組限定っていう状態を体験できることに料理以上の価値を感じる人って、沢山いるんだよね。
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そのときのために、私は誰かがしていることの悪いところよりも、自分がしてることの良いところを言えるようにしておこうかなって、思う。
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以上引用です
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感想は・・・めちゃくちゃ良かった。
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読者の人はどちら派だろう?誰もが長年人間をやっていれば、ふと何を核に生きていけばいいのか分からなくなる瞬間があるんじゃないかな。
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そんな不条理で不合理で不平等な世の中で、そのコアになるかもしれないものを教えてくれるような「生き方」の本だなーと。
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正解は無い、ただ自分にどう折り合いを付けて生きていくかだろう。
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あとねいつも思うんだけど、作者の本心というか本音を作中の人物を通して訴えている部分も少しはあるのかなと思った。
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ものを創る仕事をしていれば、誰だって、その人の活躍を目にした途端、全身の骨が溶解して元の姿に戻れなくなるくらい自分自身を保てなくなるような人が、いる。
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人物のセリフはもちろん、そのセリフとセリフの間の、さもセリフに足並みを合わせるようにうねりながら変化していく文章にしびれた、ほんとすごいなーと思う。まさに「神は細部に宿る」だと思います。
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とても面白かったです。
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