「ブラック郵便局」を読み終えた。
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著者は西日本新聞の記者。プロフィールによると日本郵政に関する本が多いようだ。
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外回り担当の局員が高齢者宅を訪ねる。高齢者は郵便局だと安心して家に入れる。局員は十分な説明をしないまま、あるいは誤解を与えるような説明をして契約をさせる。家族が契約内容を知り不審に思う。担当局員やコールセンターに抗議するが「ご本人が契約書にサインしている」との理由で返金には応じてくれない。
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苦情4,483件のうち、次いで多い606件は「加入した覚えがない」という内容だ。説明不足はまだしも、契約した覚えがないのに保険に加入していることなど通常考えられない。
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ノルマが課されるのは、契約額だけではない。アポ電の数、顧客宅への訪問件数、見積書の作成枚数、そして契約件数まで個人ごとに全ての数字が管理されている。アポイントが取れていなければ、一日中部屋にこもり電話をかけさせられる。「まるで振り込め詐欺のアジトみたいです」
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回答した3万9000人のうち、実に55%が(かんぽ保険の)不適正な乗り換え契約を勧める営業行為を職場で見聞きしたことがあると答えている。さらに、そのうちの約半数は上司が黙認していたと回答した。
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過去41件の放棄・隠匿事案について、配達員の動機を分析した内部資料によると「配達できなかった郵便局を持ち帰って怒られたくなかった」「配達が遅いと言われたくなかった」が合わせて8割を占めている。
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役職者が毎月1回、朝礼の場で配達業務に携わる全ての局員を集め「犯罪者の手記」と題された文章を読み上げるよう求めていた。「私は逮捕されました。その後は、近所から白い目でで見られているような引け目を感じる毎日で、逮捕の事実が新聞に実名入りで掲載されたこともあり、小学校に通う二人の子どももいじめられたようでした。これらはすべて、私の犯罪によるものなのです」
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金券ショップの店内では、必ず数人の先客と出くわした。彼らはサングラスやマスクで顔を隠し、手に持っているのは、自分と同じ年賀はがき入りの未開封の箱。みんな郵便局員だった。毎年の一人当たりのノルマは7000~8000枚。夫を助けるため、知人に勧めて買ってもらっていたがとてもこなせる枚数ではなかった。
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毎年、九州の郵便局で働く妹から「地元の金券屋で売ると足がつくので、そっちで換金して欲しい」と頼まれ、年賀はがき入りの箱が送られてくる。
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日本郵政は24年3月時点で、ゆうちょ銀行株の61.5%、かんぽ生命株の49.8%を保有している。完全な民間企業になるはずだった金融2社は政府が親会社の日本郵政の株式を保有しているため、国の間接的な関与が残ったまま、民業圧迫を避けるために商品開発などの規制を受け、不自由な経営が続く原因になっている。
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全国の小規模局長1万8730人の属性を調査したところ、5004人が局長経験者の親族だったとの結果が報告された。約27%が世襲の局長だ。しかし委員会ではむしろ「27%まで低下」「ショッキングな結果」との見解が示され「親族からの局長任用率低下の原因分析とその向上策」を検討していくとの方針が記載されている。
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局長会は「選考任用」を利用して会の指示通りに動く人物を局長に据え、「不転勤」によって地域に溶け込ませている。それによって集票力を維持したいという思惑があるのです。選挙で結果を出せば、政治力が強まり、会社ににらみを利かせて三本柱(もうひとつは自営局舎)も守り続けることができるというわけなんです。
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[福岡事案] コンプライアンス担当の常務執行役員が、内部通報者に関する情報を漏らしていたことが明らかになった事件。
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局長たちは、就任と同時に局長会に入るが、妻たちもまた「全国郵便局長夫人会」に加入させられる。夫が局長会の会長なら妻も夫人会の会長となるなど、その役職は夫たちの序列がそのまま反映される仕組みだ。
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「私は顧客情報を使ってしまったことがあるので、正直に「はい」を選んで回答したんです。すると、コンプライアンス担当の社員から連絡が入り「いいえ」に変更するように説得されました。これは隠ぺい工作ですよ」
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局長会にとっては、会社側を巻き込むことで、政治活動は局長会の既得権益が目的ではなく郵政グループのため、さらには顧客や地域のための取り組みだという大義名分を掲げやすくなる。一方、経営幹部らにとっては政治活動に協力することで、局長会との関係を良好の保つことができ経営を進めやすい。
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局長会は、本来は日本郵便が持つべき人事権を代わりに握ることで、約1万9000人の局長を集票活動に動員して政治力を維持し組織を守り続けている。選挙は、郵便、貯金、保険に続く郵政の第四の事業。局長にとっては一番大事な活動だ。
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以上引用です
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日本郵政グループは2007年に民営化され誕生した。
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親会社の日本郵政の下にゆうちょ銀行、かんぽ生命、日本郵便がぶら下がっている。それぞれIPOもあったよね。
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本業(郵便事業)の損失を金融(かんぽ保険)の収益で埋め合わせているのは、ソニーやセブンアンドアイなどと同じ構造だ。
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まず思ったのは「対馬の海に沈む」と同じ!
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こちらはJAの内部を暴いたもので、事業内容がタブッっているだけでなく自爆営業、人を欺かないと達成できないノルマ、機能不全のコンプライアンス室と本質も変わらない。
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そしてどちらも自民党の巨大な集票マシーンである。
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個人的に小さな郵便局は好きだ。
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素朴な雰囲気がほっとするし、距離も近いように思う。そのメリットを悪用せざるを得ないようなシステムに問題があるのだ。
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最後に印象に残ったところを
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「ありがとう いつも ○○♥ちゃん ごめんね 行って来ます」それから間もない午前8時半ごろ。夫は出勤した職場4階の窓から飛び降りて亡くなった。翌日、自宅に荷物が届いた。差出人は夫。ノルマをこなすため自腹で購入したゆうパックの商品だった。
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局長会は、日本郵便にとって、組織内に巣食う宿痾のようなものだ。
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地方の新聞記者がこれだけのスクープをすっぱ抜くのが凄いと思う。
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厳しい業界かもしれないけれど、地道に取材し分かりやすく届けることができれば読者は付いてくるんだろう。ジャーナリズム魂を感じました。
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