「苦痛の心理学」を読み終えた。
.
.
本屋でぷらっとな。
.
著者は「快楽の心理学」が専門のイェール大学心理学名誉教授。
.
.
■
.
.
学校ストライキを始める前、私は無気力で、友達もなく、誰とも話をしませんでした。たたうちに一人でいて何もせずに座っているだけです。摂食障害もありました。今はすべてが変わりました。意味を見つけたからです。多くの人にとって時にあまりに浅薄で、まったくの無意味に見えるこの世界に(グレタ・トゥーンベリ)
.
.
次第に、顔にパンチを受けるのが嬉しくなってくる。そして次には、顔にパンチを受けなくてはならないと思うようになる。自ら危険を求めるようになるのだ。もはや危険のない人生など空虚と感じられる。パンチを受けると、目から涙が出て、鼓動が速くなり、血液が血管を駆け巡る。世界が揺れる。自分が死すべき存在であることを思い出させてくれる。同時に、今この瞬間が非常に濃いものになり永遠を感じる(総合格闘家 ジョシュ・ローゼンブラット)
.
.
[快楽柔軟性原理] 気分がよくない時、人はスポーツなど気分がよくなることをしようとする。反対に気分が良い時は、しなくてはならないが、決して気分が良くはないこと(宿題など)をしようとする。双方のバランスを取ろうとする性質。
.
.
脳は常に相対評価をする。絶え間なく、現在と直近の過去との比較をしているのだ。幸福のカギはおそらく不幸にある。寒さがあってはじめて暖かさを感じる。空腹があるから満腹がありがたく思える。絶望があるからこそ、驚くほどの歓喜があるのだ。
.
.
退屈も快楽に変わりにくい苦痛の一つだ。私たちは自律性を失うと退屈を感じやすい。車での旅でも、渋滞に巻き込まれて1時間を過ごすくらいならば、その代わりに高速道路を1時間余分に走ることを選ぶ人は多いはずだ。
.
.
人の心は1日の半分くらいはさすらっている。その人がどのくらい幸福か、その時に何をしているかを問わず関係ないことを考えている時間が驚くほど長いのだ。その中でも、喜ばしいことを考えている時間は半分にも満たず、4分の1以上の時間は自分にとって喜ばしくないことを考えているらしい。総じて言えば、心がさすらっている時、人は現実よりも不幸になっていることが多い。
.

.
自分が確実に2週間以内に絞首刑になると知っていれば、注意は見事にそれだけに集中することになるだろう(サミュエル・ジョンソン)
.
.
何千というフィクション作品を対象にしたある研究によれば、良いこと、悪いことの内容、バランス、並び順などによってストーリは大きく次の六種類に分かれるという。「最後は幸福な状態になって終わる」というパターンのストーリーはさほど多くない。
1. 貧乏から金持ちへ(上昇)
2. 金持ちから貧乏へ(転落)
3. 窮地に陥る主人公(転落からの上昇)
4. イカロス(上昇からの転落)
5. シンデレラ(上昇からの転落、そして上昇)
6. オイディプス(転落からの上昇、そして転落)
.
.
「いくら払えば野良猫を絞め殺してくれるか」という質問への答えは、ソーンダイクの実験では平均で1万ドルだった(現在の18万5千ドル相当)これは、前歯を1本抜くのに必要と答えた額の平均2倍を超えていた。人はある条件下では、罪もない人に害をなすよりは、自分に害が及ぶ方を選ぶ。
.
.
「アイヒマンはおそらく、(アウシュビッツ行きの)列車の複雑な運航スケジュールを組み、限りある鉄道車両をうまくやりくりして最小限の費用での輸送を実現するという仕事においてフロー状態を体験していたと思われる。彼は自分に課せられた仕事の善悪を問うことはしなかったようだ。命令に従って動いている限り、彼の心の平和は保たれた」(チクセントミハイ)
.
.
ISISのような集団に属すると、ある種の「超越」を体験できるのだ。多くを失い、苦しみや痛みを味わいながら大義のために尽くすことで個人を超越した感覚が得られる。グレアム・ウッドによれば、ISISに参加する多くの人は人生にうんざりしているのだという。行きずりのセックスを繰り返し、ありとあらゆる薬物を摂取し、空虚な快楽に溺れているが満たされていない。満たされないので何か本物の価値あるものを探しているのだ。
.
.
子供の世話に時間をかけている人ほど、自分の人生に意味を感じていると分かった。たとえ日々の生活自体は幸福でないと言っていても、人生全体には意味を感じているのだ。
.
.
宗教は苦しみに社会的な価値を持たせている。苦しみが人と人を結びつける接着剤のような役割を果たしている。少し触れた帰属意識に関係していると言っていい。さらに重要なのは、人間が宗教を通じて長い間、激しい闘いを続けているということだ。それは、自ら望んだわけではないのに味わうことになった苦しみに意味を与えるための闘いである。
.
.
強い痛みを伴う儀式を体験した者は、より自分の属する集団を愛するようになり、その結果、皆に対して寛大になる。体験する痛みが強いほど、その人の集団への愛は強まるのだ。重要なのは、集団への愛が強まるのは、儀式をした本人だけではないということだ。儀式をただ見ていただけの者たちの集団への愛も強まる。共感の力により、本人に似た痛みを体験した気持ちになるからだ。
.
.
そして儀式はその目的が曖昧なほどうまく機能する。コミュニティを強化するために意識的に儀式を作ってもほぼ必ず失敗する。功利的な目的があからさまでは機能しないのである。
.
.
卒業式のスピーチというと、皆さんの幸運とますますの成功を祈るというのが定番ですが、私にはそのつもりはありません。なぜそうなのかもお話しましょう。私は、あなたたちがこれからの人生で何度も不当な扱いを受けることを望みます。そうすればきっと正義の価値を学べるからです。こんなこと言って申し訳ありませんが、私はあたなたちが度々孤独になることを望みます。そうすれば友人を当たり前の存在だと思わなくなるからです。私はあなたたちに時折、不運が訪れることを望みます。そうすれば偶然がいかに人生を大きく左右するかを知ることができ、成功したからといって手放しで賞賛できるわけではないこと、他人の失敗は必ずしも当人のせいではないことを学べるからです(元アメリカ最高裁長官 ジョン・ロバーツ)
.

.
何か喜ばしい出来事があった時に、その喜びがいつまでも消えなければ、生物はもはや努力をやめてしまう。つまり喜びが短期間で消えてしまう生物に比べて生存には不利になる。不安や悲しみをなくす錠剤があれば服用したい人も多いだろうが、そんなことをすれば長期的には人生が貧しくなるに違いない。
.
.
ある人の行為の良し悪しを、その意図や結果だけでなく、その人がどのくらい苦しみを体験したかで評価することにもなる。つまり、同じように良いことをしていたとしても、苦しんでいない人は評価を下げ、苦しんでいる人は過大評価をすることがあり得る。これは非常に愚かなことだ。
.
.
利他的な行為は時に世界をよりよくすると同時に、行為者をより幸福に裕福にすることがある。だが、他人の人生を良くしているが同時に金を稼いでいると非難されることが多い --- 特に何もしていない人よりも悲惨されることがある。
.

.
一つ目は、自分で望んで受けるある種の苦しみ --- 痛み、恐怖、悲しみなど --- は人にとって喜びの元になり得る。二つ目は、喜びだけの人生は良い人生とは言えないということ。そして三つ目は、高い目標を達し、充実した人生を送ろうとすれば必ず途中で何らかの苦しみを体験する。
.
.
以上引用です
.
.
■
.
.
人はなぜ苦しみを求めるのか。
.
序盤の苦しみあれこれから、段々と哲学的、幸福論みたいなお話に。
.

.
第6章の「苦しみの意味」がとても印象的だった。
.
■
.
人生には2種類の楽しみがあると思う。
.
ひとつは、食べる、寝る、セックスするといった本能的でインスタントに得られる快楽。
.
もうひとつは、苦労して何かを身につけたり、上達する喜びだ。
.
仕事や語学、音楽、スポーツなど積み重ねた苦しみの先でしか味わえない満足感や達成感。フルマラソンや登山もそうかもしれないね。
.
どちらも幸福には欠かせないイベントで、このバランスの適正を見つけるのが生きる上でひとつの醍醐味かと。
.
そのバランスが崩れている時期、おそらく人生はしっくりこない。
.

.
著者は、かなりのフロー信者で「人生のより多くの時間をフロー状態に過ごせると、幸福感と満足感が増す」というのは同意する。
.
すべてを忘れるくらい何かに集中できた日は幸福感が高い。掃除や洗濯、読書、筋トレ、些細なことで十分。
.
面倒なことであれ、楽しいことであれ、振り返ると「今日は充実してた、いい一日だったな」と思える。
.
ラク過ぎるのは飽きる、何より味気ない。苦しみとまではいかない、多少の負荷でいい。
.
■
.
一方で、自ら望まない苦しみは受ける必要はないとも言っている。
.
つまるところ、不幸な経験はなければないにこしたことはない。
.
事故や病気、拷問をすすんで希望するヤツはいない。くわえて、起こってしまった理由を強引にポジティブに解釈する必要もないと。
.
.
最期に印象に残ったところを
.
.
彼は正しくない。彼は誤ってすらいない(物理学者 ヴォルフガング・パウリ)
.
.
きっと幸せのヒントが得られると思います。
.
.


コメント