「美食の教養」を読み終えた。
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著者は南極から北朝鮮まで世界127ヵ国を食べ歩き、世界のベストレストラン50を制覇したそうだ。この人の本は初めて。
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フーディーは、レストランで食べることを目的に世界中を旅しています。しかし、1食数万円という食事も珍しくなく食べるための出費を考えると入りと出は間違いなくバランスしていません。その意味では、職業というよりも「生き方」ということになるかと思います。
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アジアでいうと、日本は強豪国に当たります。OADは昔アジアに日本を含めてひとつのランキングを発表していたのですが、トップ50のうち約8割が日本のお店という結果になってしまいました。その後アジアと日本は別のランキングになりました。
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ミシュランは料理界のパスポートだと言えるかと思います。その料理人が日本から出ないのなら正直あまり関係ない。でも海外でイベントをしたりお店を出したりとなると、ミシュランの星を取っているということが他の称号よりも強いことが多い。最低でもファストパスくらいの効果は十分あるかと思います。
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ミシュランガイドは2020年度版より、一般から予約を受け付けない完全紹介制のお店が非掲載になりました。「東京最高峰のお店が網羅されたガイド」ではなく、特別なコネクションがなくても行けるお店が載っている「使えるガイド」にさらに舵を切った印象です。
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イタリアの複数の星付きレストランで経験したことですが、日本のふりかけをパスタにかけたり、グリッシーニに混ぜたりするのです。ふりかけを一から作るならまだ分かりますが既製品を買ってきて一人3万円以上するコース料理に添えるのはお手軽過ぎやしないでしょうか。
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個人的には高級店であればあるほど、ひとりでも気を使わずに楽しめると感じています。逆にひとりで行きづらいのは、回転重視のカジュアル店や人気店です。特に4人テーブルを1人で占有してしまうことになると、本当に申し訳ない気持ちになります。
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三つ星のプレニチュードは現代的な高級店なのですが、若いサービス陣の接客はフランクでフレンドリー。会話の中にジョークが飛んできたり笑いがあったり緊張させる要素はゼロ。でもサービスマンとして押さえるところはちゃんと押さえている。これが今の方向性なのだと思います。パリですらこれが当たり前になっているわけですから、高級店に行くからといって全く緊張する必要なないのです。
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ノンアルコールペアリングは歴史が浅くまだ試行錯誤の段階で方法論が確立されていない。方向性としては「料理と共鳴するペアリング」「リセットするペアリング(マリアージュの逆)」、進化系で「オマール海老の料理にオマール殻の出汁を合わせる」などがあります。
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最もナンセンスだと思うのは、食材の原価率が高いことを自慢するお店です。原価率が高い、イコール、加工賃が低いといっているようなものだからです。それは全く自慢すべきことではない。原価はあったうえで、自分の加工賃をしっかり取れる人が本当の料理人だと思っています。
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まずくなりようがない食材を大した手もかけずに出すだけのお店は、自らの存在意義を否定しているともいえます。だって、わざわざ外食しなくても、同じ食材を家に取り寄せて食べればいいとなってしまいますから。
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グルメピッツアの特徴のひとつは生地にこだわっている点です。カリカリだったり、天然酵母を加えたり、グルテンフリーの選択肢がある店も増えてきました。二つ目の特徴はトッピングです。肉や魚をトッピングしたり、焼き上げた生地に生のものをのせることもあります。
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白トリュフは大きいもほうが小さいものより香りが強いというのは全くの嘘です。またトリュフは芯の部分が美味しいというのも嘘で最も大事なのは鮮度です。
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「味の素」の原料はMSG(グルタミン酸ナトリウム)です。これと昆布から抽出したMSGを食べ比べると化学的に同一なものなので、の違いは絶対に分かりません(違いが存在しない)では、なぜうま味調味料っぽいと感じる料理に出くわすことがあるのか。それは、うま味調味料が大量に使用されることで風味のバランスが変わるからです。昆布にはMSG以外の成分も含まれています。それを代用するために味の素を大量に使うとMSGだけが突出して他の成分が感じられない。これが違和感の正体です。
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間違いでいうとテレビドラマでも有名になった「グランメゾン」という表現。文法的には grande maison グランド・メゾンになる。ただグランド・メゾンでは大きい家、偉大な家という意味にしかならない。
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ニュー・ノルディック料理の核となるのは、ファーメンテーション(発酵)とフォレイジング(採取)。発酵食品や、野にあるハーブやキノコなどの天然食品を積極的に用いた料理です。
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ドイツ北部に行くと悲惨で、ベルリンなど世界的な街なのに美味しい店は本当に少ない。ガストロノミーを追求するレストランが意欲的な料理を提供していても席が埋まらず、結局閉店を余儀なくされる。地元の人はお金はあっても食には使わないからです。
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イタリア料理には「クチーナ・ポーヴェラ」という言葉があります。「ポーヴェラ」というのは英語の「プア」に通じます。実際には貧しい人の料理というより、質素な食材を使った料理でこれがイタリア料理の原点だと言われています。
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フランス料理には、ヌーベル・キュイジーヌ(Nouvelle Cuisine)という言葉があります。直訳すれば「新しい料理」です。ただフランス語で最初の文字が大文字になるということは、これは単に新しい料理ではなく特定のスタイルの料理を指しているということになります。つまりひとつの歴史上の時代を表す言葉として使われているのです。日本語の文脈において単に新しい料理をヌーベル・キュイジーヌと呼ぶのは間違いです。
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以上引用です
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世界中を食べ回っている外国人のドキュメンタリーを見たことがある。
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食事をするためだけに遠方までプライベートジェットで飛び回り、年間数千万円を食費に費やす、みたいな内容だったと思う。
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著者の経歴に OAD(世界のトップレストラン)レビューランキングで6年連続1位とあるので、実質「食べ歩き界の頂点」じゃないかな。
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そのポジションが日本人なのがすごい!
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以前読んだ「おいしさの錯覚」にもあった、イギリスの「ファット・ダック」や北欧の「ノーマ」などの感想も書かれていた。
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味覚は人それぞれという大前提を差っ引いても、知識と経験が桁外れな人の考えは大変興味深かった。
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自分は、田舎にポツンとあるようなミシュラングリーンスター的なお店が好きだ。グーグルマップを見ながら経路を検索しているだけでワクワクしてくる。なんでこんなところに!みたいな。
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共感したのは「少しずつ行くお店をステップアップしてみる」と「ちょっと背伸びしてみる」の件。すごく分かる。
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高級感に怯むことなかれ、行けば優しく出迎えてくれるから(笑)
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食べてみたいという欲求は人間の本質的なものだよね。
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ただ最低限のテーブルマナーには気を付けたいと思っている。恰好付けるわけではなくお店と料理人へのリスペクトだ。
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日本は高級な店だけでなく、町の食堂や町中華でも清潔で美味しい店がたくさんある。
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食事が単なる栄養摂取からうまい、美味しいへと昇華できる恵まれている環境だと思うよ。
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最後に印象に残ったところをふたつ
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レストランが提供しているのは、皿の上の料理だけでなく食体験です。つまりモノではなくコトなのです。料理が主役であることは間違いないですが、サービスや空間などさまざまな要素が統合的に噛み合ってこそ素晴らしい食体験が生まれる。それを五感で感じる場所がレストランなのです。
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If I had to eat only in one city for the rest of my life, Tokyo would be it.(フードジャーナリスト アンソニー・ボーデイン)
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死ぬまでにあと何回食べられるかな?
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楽しんでおいしく食べるのが一番!
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