「ハレム 女官と宦官たちの世界」を読み終えた。
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タイトルからして面白そうだったので購入(笑)著者の本は初めて読んだ。
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ハレムとは、中東・イスラム世界において君主や名士が構える後宮のことである。かるがるしく立ち入ることが許されない区域、たとえばイスラムの聖地にもこの単語が使われる。
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伝説の部類ではあるが、旧約聖書に登場するイスラエルの王ソロモンは、700名の妻と300名の女奴隷を持ち、妻としたファラオの娘のために特別の建物を用意したと伝わる。
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イスラム法では妻の数は4名までと定められており、君主(スルタン)といえどもこれを破ることはできなかった。しかし、自らが所有する女奴隷と性的関係を結ぶにあたっては、数の制限は無かったから、ハレムに住む寵姫たちは基本的に奴隷から選ばれたのである。さらにハレムで働く女官や宦官も基本的には奴隷身分であったために、ハレムはまさしく奴隷の世界であった。
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ハレムに購入される女性は、容姿や振舞いについて欠点が無いことが求められる。すこしでも瑕疵のある奴隷はハレムに入ることが出来なかった。たとえば、歯が欠けていると金額が安くなったし、偏平足であれば不吉だと見なされて買い手が付きにくかったという。
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体罰は配置換えで済んでいる場合はまだよかろう。しかし、犯した罪が重大なものである場合は、より過酷な処分が下された。手足を縛られたうえで袋に詰められ、夜半、ボスフォラス海峡に投げ込まれるのだ。すなわち、死罪である。
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イクバル(愛妾)という言葉は、もともと「幸運な」という意味である。スルタンの寵愛を受けることはまれにみる僥倖と見なされていたからだろう。
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序列の入れ替わりはまれな事だった。下位の愛妾が抜擢され、上位の女性がごぼう抜きするような「下克上」は基本的にはありえず、いうなれば完全な年功序列が採用されていたのだ。これは、無用な争いを避け、ハレムの秩序を守るひとつの知恵だったと考えられる。
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スルタンが死去すると、各地の太守を務めていた兄弟たちが相争い、勝ち抜いた者が至高に玉座に座るのである。このとき敗れた王子とその息子は例外なく処刑された。
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王子は即位の機会が訪れるまで、そしてその機会が訪れなければ、死ぬまでハレムに軟禁された。たとえば、即位するまでにイブラヒムは24年、オスマン三世は実に55年ものあいだ鳥籠の中で過ごしている。そして鳥籠の中にいる王族男性の生殖は厳しい管理下に置かれた。
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スルタンから王女との結婚を命じられた者に、これを拒否する選択肢は無かった。そしてスルタンの女婿になるべき者が、もし既婚であれば妻を離縁する必要があった。
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ハレムの住人の中で、異色の存在が宦官(かんがん)である。宦官とは男性器を切除された男性である。宦官となるための手術の死亡率は極めて高い。
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唖者たちは、手話で意思疎通を図っていた。そのため、静謐を重んずる宮廷において唖者は適役とみなされたのである。
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アブデュルハミト2世による長い専制は、1908年、青年将校からなる統一進歩委員会のクーデターによって終わりを告げた。これを青年トルコ革命という。
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黒人宦官と女官のなかには、オスマン帝国にとどまっていては暮らしていけないと考え、祖国を見限ってヨーロッパに向かった者たちすらいた。しかし、彼らは、手に職を持っているわけではなかったから、見世物になることでその生計を支えたのだった。
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以上引用です
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感想は・・・すごい世界だ。
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女性だけじゃなく男性奴隷の物語でもあるかなと。
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日本人が「ハレム」と聞いたら、男性が多数の女性をはべらかして、飲めや歌えやの乱痴気騒ぎみたいなのを連想するんじゃないかな。
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自分もそうで(笑)せいぜい「側室のようなところなのかなー」と漠然と思っていた。
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特に印象的だったのは、なんといっても宦官(かんがん)だ。上にも書いたけれど、宦官とは男性器を切除されて去勢された奴隷のことだ。
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宦官には白人宦官と黒人宦官がいて、黒人宦官はハレムの女官たちを厳しく管理していた。これは君主以外が女性と性行為ができないようにするための措置だろう。これは分かる。
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一方で白人宦官は、ハレムの隣の内廷で小姓(王子)たちを育成、管理するのが主な仕事だ(エリート養成機関のようなところ)
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つまるところ、例え男性同士でも性的搾取が行われないようにするためだ。
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同性愛は厳しく禁止されていたが、実際にはあったそうだ。異性がいない閉鎖された空間に、何年もいるときっとおかしくなるんだろう。
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リビドーの捌け口が無いのだ。
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男性の立場から言わせてもらえば、好きでもない人の子供を産むのと同じくらい、自分の子供を作れないのは辛いことだと思う。
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もう一つはハレムのおかげで「王子候補」は確保できるんだけれども、「王子」になれなかったら処刑されるか厳しく生殖が管理されると。
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カイジの言葉を借りるなら「おまえら、それでも人間かっ!」だ(笑)
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もはや人間マッチポンプだ。現在の感覚で言えば、控えめに言っても99%の人にとっては地獄だろう。
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そしてハレムは職種のヒエラルキーはもちろん、建物内部の構造も後継ぎを確保するためだけにシステマティックに作られている。
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もう少し引用させてもらうと
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世襲君主制の維持、すなわち後継者の確保は、君主の生物としての側面に依存せざるを得ない。君主が生物である以上、後継者を設けられない可能性を排除することは、原理的に不可能である。その危険を可能な限り減少させるのが後宮の役割だった。ほとんどの世襲君主制の王朝が後宮をかまえたのは、けだし当然といえよう。
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ハレムの歴史が教えるのは、徹頭徹尾、王位継承者を確保するという目的に最適化された組織だった、ということである。
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とどのつまり、体制の維持だ。
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日本にも江戸時代には大奥、明治時代には側室があったよね。オスマン帝国に限らず、当時はこれがスタンダードだったんだろう。そして月日が流れて、奴隷貿易の廃止と共にようやく専制政治が終わりを告げると。
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そんなオスマン帝国の栄枯盛衰についても学べると思う。加えて読後はもれなくトプカプ宮殿に行ってみたくなることうけあいだ(笑)
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興味のある方はどうぞー
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