「暴力と不平等の人類史」を読み終えた。
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著者はウォルターシャイデル氏で、この本の出版はピケティの「21世紀の資本」にかなり触発されたらしい。ショッピングカートに入れてあってようやく読めた。
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有史以来、最も強い平等化は最も力強い衝撃の帰結であるのが常だった。不平等を是正してきた爆発的破壊力には4つの種類がある。すなわち、大量動員戦争、変革的革命、国家の破綻、致死的伝染病の大流行だ。
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物乞い、たかり、盗みは、資源配分をより平等にするための有効な手段だ。権威を振りかざしたり、自己権力を拡大しようとするような行動に対しては、陰口、批判、嘲笑、不服従から追放、身体的暴力、果ては殺害までさまざまなかたちで制裁がなされる。
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大量動員戦争は、20世紀における2つの主要な平等化手段のひとつとして働いた。もうひとつは革命だったが、そうした革命も2つの世界大戦を契機にしていたと考えれば戦争と革命は双子である、互いに肩を並べて突き進んだのである。
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これまであなた方の国の商業資源、産業資源、天然資源の大部分は、少数の封建的な一族に所有され管理され、彼らの排他的利益のために収奪されてきた。連合国の政策はそのような体制の解体を要求している(ダグラス・マッカーサ―)
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金融部門も荒廃した。1948年には銀行の損失は莫大な額に膨れ上がっており、それに対処するには、ある一定基準以上の預金を帳消しにすることに加え、キャピタルゲインと留保利益をすべて無にして資本を90%削減するしかなかった。上位1%に占める配当、利子、賃貸料所得の割合は1937年には45.9%、45年には11.8%だったが、48年には多く見積もっても0.3%にしかならなくなっていた。
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2度の世界大戦で生じた費用と損失(人命の損失も含めて)の合計は1938年の価格で4兆ドルに達したと推定され、大戦勃発時の世界の年間GDPより1桁大きかった。
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アメリカとイギリスの物価は1913~1950年に3倍に上昇しただけだったが、その他の交戦国はそれほど幸運ではなかった。日本では1929~1950年の期間だけで200倍になって債権保有者や不労所得生活者は路頭に迷った。
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20世紀において、過去を消し去り社会がまっさらな状態で新たに始動できるようにしたものは、調和のとれた民主的合理性や経済的合理性ではなく戦争だったのである。
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この深刻な国家危機に際し、超過所得はすべてこの戦争に勝利するために投じられるべきものである(フランクリン・ルーズベルト)
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戦勝国であろうと敗戦国であろうと、戦時中に占領されようと戦後に占領されようと、民主体制であろうと独裁体制であろうと大規模な暴力を目的とする大量動員こそが、資産と富の分配を変革する推進力となっていたのである。
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対照的に内戦は不平等を増大させる。特に戦争後の最初の5年間にその傾向が顕著になる。
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(毛沢東の土地改革で)羽振りがよく見えることを恐れた農民が、生きていくのに最低限必要な分だけしか働かなくなった。「貧乏こそ最高だ」と村人は思った。暴力的な平等化を目の前にしての、まったくもって賢明な戦略である。
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共産党は都市の「ブルジョワジー」に対する運動を開始した。100万人前後が殺され、さらに250万人が収容所送りになった。
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2度の世界大戦が最大1億人の命を直接、間接に奪ったように、共産主義もまた中国とソ連を中心にほぼ同じだけの数の死者を発生させている。その痛ましいほどの凄惨さにおいて、変革的共産主義革命はまさに大量動員戦争に匹敵する。
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つまり、所得分布の最上部を切り落とし、人口の1%にあたるごく一部の人々が握る所得と富のシェアを大幅に圧縮することによって、不平等が減少したのだ。
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制約のない略奪国家は、国民の幸せにとって無政府状態よりも有害だ。
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ヨーロッパから持ち込まれた病気のうち、もっとも大きな被害をもたらしたのは天然痘とはしかだった。
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解放された奴隷はその後数年、以前の所有者のもと無報酬で働くことを強いられ所有者には保証金が支払われた。保証に要した2000万ポンドという金額は莫大でイギリスの年間公共支出の40%、今日の価値で23億ドルに相当する。
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暴力を伴わない土地改革、不況、民主化は功を奏するときがあるものの不平等を体系的に軽減する効果はない。大まかに言えば、戦争や革命を通じて多くの暴力を伴うほど平等化は効果的に行われるようだ。
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人口の増加は環境収容力を圧迫し、土地に対する労働の価値を相対的に下げる。そのプロセスはエリートを裕福にして不平等を高めることにつながり、それが今度はエリート間の競争の激化を促して最後には国家の機能不全を招く。
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つまるところ、将来の戦闘の性質を現在予測すれば、その中心はロボット工学、スマート弾、ユビキタスセンサー、無限ネットワーキング。サイバー戦争がもたらすであろう甚大な影響だ。そうした紛争の平等化効果はいずれも金融市場に集中すると考えられ、近年のグローバル金融危機に似た混乱を引き起こして、一時的にエリートの富を減らすだけで数年後には元の木阿弥になるだろう。
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以上引用です
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感想は・・・自分で読んでみて欲しい(笑)
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とても厚くて中身が深い本だ。
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内容は紀元前2000年から現代までの世界を網羅していて600ページにプラスして索引が100ページ以上ある大作だ。これだけのボリュームがある本を読むのは「21世紀の資本」以来で、とても全部はまとめられない。
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それでもあえて一言で言うなら
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「人大杉」だ(笑)
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*人が多すぎるという意味です
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歴史を振り返ると少なくとも現在までは戦争、革命、崩壊、疫病といった人口が圧縮される出来事が定期的に起きていたんだよね。
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人口が減ると必然的に労働の価値が上がり賃金が上がる、そして対照的に土地や資本の価値は下がる。
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つまるところ、資本と労働のリパランスが起こって平等化が促進された。
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そしてまた人口が回復にするにつれて社会的、政治的環境が変わりまた不平等が増していくと。
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断続的に不平等は拡大していたけど、それと同じくらいに断続的に平等化もしていたんだよね。ファミコンのリセットボタン、強制的再分配という名のちゃぶ台返しが定期的に起きていた。
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そんなサイクルが行き詰まって機能しなくなっていて、それらをまとめたのがピケティの「21世紀の資本」とこの本なのかなと。視点は違うけど言いたい事は同じだと感じた。
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人間はそんな簡単に間引きできないのだ。
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更に引用すると
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今日の世界では、平等化の最も有効なメカニズムはどれも作用していない。「四騎士」は馬から下りたのだ。そして正気の人間なら彼らの復帰を決して望まないだろう。
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この辺りを読みながら、以前読んだエドワード・ルトワックの「戦争にチャンスを与えよ」を思い出した。考え方が似ていると思う。
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皮肉にも戦争、革命、崩壊、疫病は複合的に起こると更に速く平等化が進むそうだ。ちなみに、冷戦によるソ連の脅威も不平等に対する自制装置として働いたらしい。
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少し以外だったのは経済成長と所得は不平等には関係無いそうだ、へー
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第1部は正直読んでいて眠たいので(笑)第2部から読んでもいいと思う。特に第4章の「国家総力戦 日本の大規模な平等化」と「大圧縮」はとても読み応えがある。毛沢東とレーニンの富裕層の一掃も面白かった。
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「崩壊」の章ではソマリアの話が出てきて高野秀行さんの「謎の独立国家ソマリランド」を思い出した。こちらもとても面白い本です。
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今も世界中で「四騎士」のうちの一つ、疫病が猛威を振るっているよね。今のところはそんなにリバランスが起きているようには思えない。いやこれからか・・・
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面白かったです。
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