「アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か? これからの経済と女性の話」を読み終えた。
.
.
ゲームにはまってしまい、なかなか読めなかった本(笑)
.
著者はスウェーデン出身のジャーナリストで、この本は元々2012年に発売されたらしい。ようやく読めた。
.
.
■
.
.
女子校に通う女子は男子と同じくらいリスク志向であるらしい。一方、共学の女子はリスクを避ける傾向がある。少なくとも異性の見ている場合は。「男対女」の社会規範がどうやら肝になっているようだ。
.
.
子どもを生むこと、育てること、庭に野菜や花を植えること、家族のために食事を作ること、家で飼っている牛のミルクを搾ること、アダム・スミスが国富論を執筆できるように身のまわりの世話をすること、それらは全て国の経済活動の総量を測るGDPから排除される。
.
.
[セテリスパリブス] 「ほかの全ての条件が同等または一定であれば」という意味
.
.
一人ひとりが利己的に行動すれば、自動的にみんながハッピーになるという魔法のような物語。私たちの欲とエゴは「見えざる手」によって調和と均衡へと変容する。この物語はカトリックの深遠なる神秘にも似て、私たちの生に意味と赦しを与えてくれる。あなたが欲深く、利己的であるからこそあたなは他者と和解できるのです。
.
.
経済学者によると、もしも男性のほうが家事に向いているとしたら、すでに男性が家事をしているはずだ。そのほうが効率がいいからだ。でも現実に男性は家事をしていない。だから女性のほうが家事に向いているに違いない、というわけだ。
.
.
あなたがチョコレートプディングが好きで、おばあちゃんと時間を過ごすのも好きだとしよう。その場合、経済学のモデルによると、おばあちゃんと過ごす時間は一定量のチョコレートプディングで埋め合わせ可能である。たとえ二度とおばあちゃんに会えなくても、チョコレートプディングがたっぷりあればあなたは満足するはずだ。そうやって人生のほとんどのことは説明できると主張する。
.
.
女性が子どもを産めるという事実が意味するのは、女性が子どもを産めるということだ。ずっと家にいて子どもの面倒を見るべきだということではない。
.
.
男性の命には価値がある。女性の命は、男性の次に価値がある。技術の進歩によって子宮の中の胎児の性別が分かるようになると、南アジアや中国や韓国で女児の選択的中絶が広まった。
.
.
女性の生物学的特徴の中に、無給の家事労働に向いていることを示すものは存在しない。低賃金の時給労働でこき使われるべきだという証拠もない。ペニスの有無と経済力の結びつきに必然性があると論証したいなら、何か別の根拠を探すべきだ。
.
.
精神分析の父フロイトは、女性の体が生まれつき掃除をするのに向いていると信じていた。それは女性のヴァギナがもともと汚いからだ。自分の体の不浄を埋め合わせるために、床を磨き窓を拭き、せっせと家をきれいにするのだ。
.
.
「駅はどこですか?」とある人が尋ねる。「あっちだよ」地元の人は言い、駅とは反対方向の郵便局を指差す。「ついでにっこの手紙、途中で投函しておいてもらえないかな?」「お安いごようです」道を尋ねた人は手紙を受けとると、勝手に開封して何か貴重品が入っていないか探っている。そんなふうでは、何もうまくいかない。
.
.
トラックの荷台からソファをおろすのを通りすがりの人に手伝ってほしいとき「お金を払います」と言うと断られる可能性が高くなる。善意で手助けしたいという気持ちがお金の介在によって邪魔されてしまうからだ。
.
.
経済人が現実的でないのはもう明らかだ。興味深いのは、人がそれでも経済人にしがみつこうとする態度である。
.
.
経済人の性格はあらゆる面で「男性的」と呼ばれてきたものに一致する。そのあらゆる性質は「女性的」と呼ばれるものに勝り、優位に立つべきだとされている。
.
.
以上引用です
.
.
■
.
.
感想は・・・とても面白かった。
.
経済学が作り出した「完璧な経済人」と、アダム・スミスのいわゆる「見えざる手」を男女平等の観点からぶった切ってる感じだろうか。
.
こういった、経済をフェミニズムの視点から見た学問を「フェミニスト経済学」というそうだ。今まで読んだ経済や金融の本の中でも斬新だった。
.
どれだけ数式やモデルで近似化できても、現実の「人」は損得勘定やインセンティブだけでは動かない。
.
.
人は自分の利益よりも他人の幸福を優先することが多々ある。合理的に考えれば損失になるような状況でも、人は利他的に行動しうる。この先訪れる機会がないであろうレストランでも、チップを置いてくるのが現実の人間だ。経済人なら、そんなときにチップを払わない。チップを払わずにウエィトレスの機嫌を損ねたところで、もう来ないのだから自分のスープに蠅を入れられる心配はない。経済人は涼しい顔で立ち上がり、そのまま店を後にするだろう。
.
.
市場も人間で成り立っていて、人間はものを考えて感情を持っているからね。ロジックで動くゲームと訳が違う「複雑系」というやつだ。
.
.
フェミニズムといっても、薄っぺらい重箱の隅をつつくような言葉狩りや、単なる揚げ足取りではなくとても説得力があった。
.
それと同様に行き過ぎた資本主義に対する警鐘だとも思う。オーバーシュートしたものは必ず揺り戻しがくるものだ。
.
.
ブラックマンデーからバブル崩壊、LTCMの破綻、リーマンショックまで時系列で書かれているので、その辺の復習にもなる本だと思う。
.
.
スウェーデンといえばジェンダー平等のイメージがあるよね。しかしながら、あとがきによると実際のところはまだまだ格差があるそうだ。
.
日本は北欧の足元にも及ばないけれど、それでも昔よりは改善してるんじゃないかな。少しずつ社会に浸透して、少しずつ社会が変わっていくんだろう。そして気付いたら「あ、今こんな感じなんだ」みたいな(笑)
.
.
ちなみに、カナダの統計局が無償労働の価値を測定して試算したところ、その価値はGDP全体の30.6%から41.4%という数字になるそうだ。
.
今風に言うならケア労働、エッセンシャルワーカーだろう。この件はブルシットジョブにも繋がるのかなと。
.
.
アイルランドで銀行ストライキが起きたとき、経済はすぐに停止するだろうというストライキのオーガナイザーの予想に反して日常生活にはなんの変化も無かった。一方でニューヨークでゴミ収集に従事する人たちがストライキを行うとたった10日で街が居住不可能になった。
.
他者のためになる労働であればあるほど、受け取る報酬がより少なくなる。
.
多くの人々が、子供のケアのような有用でありかつ重要な仕事をやるか(他人を助けることで得られる満足感それ自体が見返りであり、それ以上の報酬は期待すべきではないと説教されつつ)あるいは無意味であり自尊心を傷つけられる仕事を受け入れるか(原因はなんであれ心身ともに破壊するような労働に就かない人間は生きるに値しないという浸透し感覚以外にとくに理由もなく、心身を破壊されつつ)選択を迫られている。
.
.
■
.
.
この本の真逆の内容が「幸福の計算式」かな。あらゆるものに値段を付けていて、これはこれで面白いので合わせて読むといいかもしれません。
.
「星の動きは計算できるが、人の狂気は計算不能だ」アイザック・ニュートン
.
訳も素晴らしく、とても読み応えがありました。
.
あ、経済学も好きです(笑)
.
.
コメント