からだの錯覚

読書

「からだの錯覚 脳と感覚が作り出す不思議な世界」を読み終えた。
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著者は名古屋市立大学の工学博士で、世界錯覚コンテストに入賞したそうだ。以前読んだ本に引用されていて読みたかった本。
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錯覚の感度は、距離が20cm程度から急激に上昇するということ。すなわち自分の手の周囲20cm程度の領域に別の手のイメージが提示されれば、そちらに乗り移る可能性が一気に高まることを意味しています。
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アリス症候群では自分自身よりもモノのサイズ感が変わることが圧倒的に多く報告されています。さらにそれ以外に時間感覚の変調や距離感などのさまざまな症状の複合体として捉えられるようです。患者のうち10%弱が身体全体あるいは一部の部位の巨大化や縮小化を経験しています。
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蟹の錯覚(白い紙:オリジナル版)

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共感覚者が文字に色を見ていることは、脳のV4という領域の活動を観察することによって、また一般の人やサルが錯視画像に対して動きを感じていることはMT野という領域のニューロンを観察することにより証明されています。
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視覚野における処理の速さや解像度の高さなどが個々によって異なる一方で、低次の処理から高次な処理(動き検出、形状の同定)へと至るプロセスそのものは、遺伝的にほぼ完全に決まっています。
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[ナムネス numbness] 所有感が部分的に奪われている自分の身体を触っている際に得られる特徴的な感覚のこと。
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CRPSの患者の主観的様態の中で、病変のある身体部位に対して「身体象の歪み」を抱えていることが注目されています。ある文献ではCRPSの患者のうち、54.4%から84%というかなりの割合いの者が、何らかの身体象の歪みを訴えているとされています。具体的には「手が実際よりも大きい」「手の一部が収縮している」といったサイズ感や形状感の変化、位置感覚制度の減退といった特徴がみられるようです。
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皮膚認知を有しながら、空間認知を持たない皮膚は、自己と非自己の中間にある神経系にとっては半ば「モノ」のような存在であると言えます。その意味では私たちの皮膚は、身体本体に貼られたスライムなのだといってもあながち言い過ぎではありません。人は骨格をあきらめて皮膚としての身体に照準することで、変形距離を圧倒的に伸ばすことができるのです。
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BBCの記事で全身麻酔が効いていない状態で、腹部の外科手術を受けたドナという名の女性の証言を読むことができます。手術が始まって間もなく予定より圧倒的に早く全身麻酔が解けてドナは眠りから覚めます。直後、手術が終わったと思って安心していた彼女は、執刀医の「メス」という言葉にこの最悪の状況を理解します。終わったと思っていた手術はまさにこれから始まろうとしていたのです。寝台で凍りつく彼女は、この恐怖の事態を必死で目の前の人たちに訴えようとしますが、同時に投与されていた筋弛緩剤が効いていたため、話すことも動くこともできません。ただただ腹部への強烈な痛みをやり過ごす拷問のような手術が終わろうとする頃、ドナは幽体離脱をして自分の体から外へ抜け出します。そこでは恐怖は消え痛みも消えていました。皮肉なことに、まるで聞く耳を持たない医者に変わって、彼女は自分自身の意志で「全身麻酔を打つ」ことに成功したのです。
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仮面を顔に当てて、鏡に映る自分の顔の変化を楽しんでいる時は「気持ち悪さ」よりも、自己像を自在にそして可逆的に操作している「気持ち良さ」のほうがより前景化するはずです。ところが、突然仮面が顔に貼り付いたまま外せなくなれば途端に気持ち悪さが襲ってくるでしょう。
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以上引用です
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体の錯覚というのは誰にもで起こり得るそうだ。まず著者の研究所がアップしている動画を見るのが手っ取り早いと思う。
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ラバーハンド錯覚

三者会議・ラバーハンド錯覚(TRIPARTY RUBBER HAND ILLUSION)

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Slime Hand (Top 10 Best Illusion of the Year Contest 2021)

Slime Hand (Top 10 Best Illusion of the Year Contest 2021)|小鷹研究室

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自分の手が自分の手じゃなくなり、ルフィのように手が伸び、大理石のように硬くなる。
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ほんとか、おい!
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自分のからだはどこまでなんだろう?どこまで拡張するんだろう?そんな疑問に科学的に答えてくれる。
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このような錯覚が起こるには形、距離、姿勢などの最低限の条件があるそうだ。一人だと全て試せないのが悲しい。
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「からだ」≠「触覚」ということは、触覚などあってないようなものなんだろう。
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視覚の力に簡単に屈してしまう。視覚が作り出した映像を触覚が処理しきれない、マッチできないイメージだろうか。
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第6章の「幽体離脱を科学する」が興味深かった。今や幽体離脱は疑似科学や都市伝説ではなく、科学的にメカニズムが証明されつつある。
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幽体離脱は脳内現象で三次元空間のシミュレーション能力の高い人に起こりやすいそうだ。そして脳のTPJ(側頭部頂接合部)への刺激によって意図的にも誘発できると。
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もうひとつは、死と隣合わせにあるほどの限界的状況でも起こりやすい。よく「死の間際にベッドの上から自ら自分を見下ろしていた」なんて話を聞いたことがあるよね。
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そう考えると、幽体離脱というのは人間に備わっている能力なのかもしれない。耐え難い痛みや恐怖から現実逃避して命を繋ごうとするのだ。
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恐怖でお漏らしするのは、自ら不快な臭いを出して脅威となる敵をそれ以上寄せ付けないためで、そんな感覚にも近いのかな。
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心的回転で上視点の成績が良いのはゲームの影響もあると思った。思うに、ゴリゴリ動く3DやVRに慣れているゲ-マーのほうがよりトリップする素質があるんじゃないだろうか。
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エルデンリングで気持ち悪くなってるようでは体験できないだろう(笑)
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あとね、錯覚は脳が無駄なエネルギーを消費しないように自動で省エネ化しているのかも。もしフルパワーを使えれば本当はあらゆることが察知できたりして、ははは。
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世間的にはマイナーな分野なのかもしれないけれど、これから楽しみだと思いました。面白かったです。
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