「資本主義の次に来る世界」を読み終えた。
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著者はイギリスの経済人類学者で、欧州グリーン・ニューディール諮問委員もつとめているそうだ。面白そうだったので購入。
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原題は LESS IS MORE. How degrowth will save the world でこの人の本は初めてだった。
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研究者たちは、陸上昆虫の数が10年ごとに9%減少してきたことを発見した。少なくとも10種に1種は絶滅の危機にある。驚くべき数字であり「連鎖的絶滅」の可能性も懸念されている。現在、通常の1000倍のスピードで種が絶滅していて、ある種の絶滅が別の種の絶滅を導くことで生物多様性が予想できないスピードで失われていく。
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成長は構造上の必然であり鉄則である。その上、鉄壁のイデオロギーに支えられてる。右派と左派の政治家は成長がもたらす配当の分配にはついては言い争うかもしれないが、成長の追求に関して両者に隔たりはない。生態系崩壊に関する悲惨な記事を載せている新聞が、同じ紙面で4半期ごとのGDP成長を興奮気味に報道し、気候変動を嘆く政治家が毎年の産業の成長を熱心に要求し続けている。この認知的不協和には驚かされる。
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世論調査ではイギリス人の64%が資本主義は不公平だと考えていることが分かった。アメリカでさえその割合は55%にのぼる。ドイツでは77%という大多数だ。2020年の調査では、世界の過半数の人(56%)が「資本主義は良いことより悪いことのほうが多い」に同意することが分かった。フランスでは69%と高く、インドでは74%という驚異的な数字だ。加えて主要な資本主義国では、4人のうち3人が企業は腐敗していると述べている。
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「愚か者以外は知っているはずだが、下層階級は貧しいままにしておかなければならない。そうしなければ決して勤勉にはならないだろう」(アーサー・ヤング)資本主義の支持者たちは、富みを生み出すには人々を貧しくする必要があると考えていたのだ。
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デカルトは、科学の目的は「人間を自然の支配者、所有者にすること」だと主張した。400年を経た今もこの倫理観はわたしたちの文化に深く根付いている。
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現在、世界経済は80兆ドル超に相当するため、年3%の成長率を維持するには資本家は2.5兆ドル相当の新たな投資先を見つけなくてはならない。2.5兆ドルは世界最大級であるイギリス経済の規模だ。どうにかしてこの先の1年でイギリス経済と同等のものを現行の経済に追加できたとしても、翌年にはさらに多くを追加しなければならず、それはずっと続く。
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どうすれば出生率を低下させられるだろう。まず子供の健康に投資し、子供が無事に成長することを親が確信できるようにする。次に、女性の健康と生殖の権利の投資し、女性が自分の身体と子供の数をコントロールできるようにする。加えて女子教育に投資し、女性の選択肢と機会を広げ全ての人の経済的安定を確保する。これらの政策を実施すれば、人口増加の勢いは急速に --- 1世代のうちにさえ --- 落ちる。
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成長と聞くと良いことのように思える。しかし根本的に間違っている。自然界における成長には常に限界がある。わたしたちは子供の成長を願うが、3メートル近い背丈を望むわけではないし、際限ない指数関数的成長は決して望まない。ある段階まで成熟したら、その後は健康的なバランスを維持してほしいと思っている。作物についても成長を望むのは収穫できるようになるまでであって、その後は新しい作物を植える。これが生物界における成長の仕組みだ。やがて成長のグラフは水平になる。成長が止まらないのは、言うならばコーディングエラーでがんなどで起きる。細胞が成長そのものを目的として複製し続け、やがて死をもたらすのだ。
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[プラネタリー・バウンダリー] 地球の生物圏は統合されたシステムで、相当のプレッシャーには耐えられるが、ある点を超えると崩壊し始める。地球上で人間が安全に生存できる限界のこと。
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最新のデータによると、わたしたちはすでに4つのプラネタリー・バウンダリーを越えている。気候変動、生物多様性の喪失、森林破壊、生物地球化学的循環である。そして海洋の酸性化は限界を目前にしている。
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世界中に出回っている20億台のガソリン車を電気自動車に切り替えるには、資源採掘量を爆発的に増やさなければならない。2050年までに世界のネオジムとジスプロシウムの年間採取量は70%増え、銅の年間採掘量は2倍以上、コバルトはほぼ4倍になるだろう。電気自動車への切り替えはすべきだが、最終的に必要なのは車の数を大幅に減らすことだ。
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世界経済が今のペースで成長し続ける限り、温暖化を1.5度から2度以下に抑えることはできない。成長すればするほどエネルギー需要は増える。エネルギー需要が増えれば増えるほど、残された短い時間でその需要を満たすほどのクリーンエネルギーを生産するのは難しく、おそらく不可能だ。
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[カッシューム・ブルックスの仮設] エネルギーや資源がより効率的に利用する方法が開発されると、総消費量は一時的に減少するかもしれないが、たちまちリバウンドして以前より増加すること。なぜなら、企業は貯まった資金を再投資してより多く生産するようになるからで、効率が目覚ましく向上しても成長に飲み込まれる。
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アメリカは単独で世界の超過排出量の40%以上の責任を負っている。EUは29%だ。EU以外のヨーロッパ諸国とカナダ、日本、オーストラリアを合わせると、グローバルノースの国々(世界人口に占める割合はわずか19%)は超過排出量の92%の原因になっている。対照的に南アメリカ、アフリカ、中東は合わせてもわずか8%だ。
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世界人口の上位10%の富裕層は1990年以来、世界の総炭素排出量の半分以上の原因になっている。つまり世界の気候危機の大半は富裕層によって引き起こされているのだ。所得が上がるにつれて不均衡はますます拡大する。世界の上位1%の富裕層の排出量は、貧困層の人の100倍を超える。それは彼らが消費する物が大量のエネルギーを消費するからだ。豪邸、大型車、プライベートジェット、頻繁なフライト、外国での休暇、贅沢な輸入品などだ。そして富裕層が使いきれないほどお金を持っている場合彼らはその余剰分を生態系を破壊する発展産業に投資する。
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「GDPでは、機知も勇気も、知恵も学びも、思いやりも国への献身も測れない。それによって測定できるのは人生を価値あるものにするもの以外のすべてである」ロバート・ケネディ
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ある点を過ぎると、成長は非経済的になる。富より貧困を多く生み出すようになる。重要なのは成長そのものではなく、わたしたちが何を生産しているか、人々が必要なものやサービスにアクセスできているか、所得がどのように分配されているかということなのだ。
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1920年代のアメリカではGE社を中心とする電球メーカーがカルテルを組み、平均で2500時間だった白熱電球の寿命を1000時間以下に短縮した。
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資本主義は効率重視の合理的なシステムだとわたしたちは考えがちだが、事実は全く逆だ、計画的陳腐化(商品の寿命をわざと短くしたり、修理できないように設計すること)は意図的な非効率の典型である。その非効率さは利益の最大化という観点から見れば合理的だが、人間の要求とエコロジーの観点から見れば非合理的だ。資源、不必要なエネルギー、人間の労働を浪費しているという点でもきわめて非合理的だ。
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アップグレードできて長持ちするデバイスを作れないわけでなく、実際作れるはずなのだが成長を優先するためにその開発は抑制されている。「最高のイノベーター」と呼ばれる複数の巨大テクノロジー企業が、わたしたちが必要とするイノベーションを抑え込んでいるのだ。
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フランスの研究では、長い労働時間は環境負荷の高い商品(高速での移動、食事の宅配、衝動買い、買い物セラピーなど)の消費と直結していることが判明した。対照的に余暇を多く与えられた人々には、環境負荷の低い活動に惹かれる傾向が見られた。運動、ボランティア活動、学習、友人や家族との交流などだ。
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通常、わたしたちは資本主義を非常に多くのものを生み出すシステムと見なしている。だが実際は資本主義は絶え間ない希少性の創出を軸として組み立てられたエンジンなのだ。生産性と利益を驚くほど向上させるが、それらを豊さと自由にではなく、新たな形の人為的希少性に変える。成長志向のシステムの目的は、人間のニーズを満たすことではなく満たさないようにすることなのだ。実に不合理で生態系には暴力的だ。
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格差是正の一つは「最高賃金制度」を導入して、役員と従業員の報酬費に上限を求めることだろう。税引き後の報酬比を10対1以下にすればCEOはただちに従業員の賃金を可能な限り引き上げるだろう。
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アメリカの政策決定では、大多数の市民が賛成していない場合でも、ほぼ常にエリートの利益が優先される。この意味でアメリカは民主主義というより金権主義に近い。
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アニミストは、動物、植物、ひいては川や山でさえ客体としてではなく主体と見なす。そのような世界観に「それ」は存在しない。あらゆるものは「あなた」なのだ。
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木がわたしたちの健康と幸福に及ぼす影響は、多額の金銭より強力である。街路樹がたった10本増えるだけで心血管代謝は向上し、その効果は2万ドルの臨時収入に匹敵した。その10本の木がもたらす幸福感の向上は1万ドルの臨時収入、平均年収が1万ドル高い地域への引っ越し、あるいは7歳の若返りに匹敵した。
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非倫理的なのは、感謝の気持ちや互恵の念を抱かずに収穫や伐採を行うことだ。非倫理的なのは、必要とするより多く、返せるより多く取ることだ。非倫理的なのは、過剰に搾り取ることであり、なお悪いのは無駄にすることだ。
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インドではガンジス川とヤムナ川に法的権利が付与された。「生きた人間に付随するすべての権利、義務、法的責任」を与えられたのだ。コロンビアでは最高裁判所がアマゾン川に法的権利を認めた。人間に害を及ぼす行為が起訴されるのと同様に、今後これらの川に害を及ぼす行為はすべて起訴される可能性がある。
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以上引用です
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読むしかない!
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全て引用したいくらい面白かった。
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資本主義の歴史と、ポスト資本主義のひとつの姿が書かれている。
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決して煽動的な思想やマルクス主義への回帰ではなく、今の時代に即した現実的で説得力のある説明だと思う。
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資本主義の限界、つまるところ成長主義の末路だ。
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AIや移民に仕事を取って奪われる、領土が侵略される、核戦争が起こる、未来は誰にも分からないけれど、このまま変わらなければほぼ確実に起こるのがプラネタリー・バウンダリーの崩壊だろう。
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自分は悲観論者なので、地球温暖化へのティッピングポイントは避けられないと思っている(個人的感想です)
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巷では平均気温が2度上昇すると、不可逆的なフィードバックループが働いて制御が不可能になると言われているよね。
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おそらく、地球が崩壊するまで余剰の蓄積(金儲け)は止まらない。
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Show must go on なのだ。
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そうなると地球史上6度目の大量絶滅は、遠い未来のことではなくなるだろう。今はまだゆっくりと、でも確実に着実に進んでいる。
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例として、コスタリカなど惨めな生活をしたり厳しい限界を設けなくても脱成長を達成できている国が挙げられていて、それらは希望になる。
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ただ、解決策が示されてからといって、先進国が団結してそこへ向かえるかどうかは未知数だ。
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世界にはならず者国家がたくさんある。国力が縮小すると簡単に侵略されるだろう。安全保障が一番の問題じゃないかな。
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もう一つ、自然は脆い一方で驚異の回復力がある。不毛な土地が、多種多様な動植物が栄えるようになるまでかかる期間はわずか7年だ。
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読みながらこの映画を思い出していた。ぜひ合わせて見てほしいな。
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途中「マザーツリー」がたくさん引用されていてうれしかった。
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日本には古くから八百万の神(やおよろず)という考えがあるよね。
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精神と物質は2つに分かれ、人とそれ以外(自然)を単なる物とみなすいわゆる二元論とは違い、ありとあらゆる物には神が宿っていて、全てに対して敬意を持ち崇める風習だ。
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一方的な搾取ではない互恵の精神で、日本人はアニミズムと相性がよく理解しやすいと思う。
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最期に刺さったところを
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「不平等は嫉妬心をかき立てるために欠かせない。それが資本主義を支えている」ボリス・ジョンソン イギリス前首相
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「世界の終わりを想像するより、資本主義の終わりを想像するほうが難しい」フレドリック・ジェイムソン
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「人類はいずれ非常に高い代価を支払うことになるだろう。知られる限り宇宙で唯一の生物群に対して大量殺戮を行ったことへの代価を」米国科学アカデミー紀要
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お値段以上の価値がある本だと思う。今年読んだ中でベスト3に入る。
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出来れば無料でみんなが読めるようになって欲しいな。そんな本でした。
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