「WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす」を読み終えた。
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著者はシドニー工科大学の組織論教授らしい。面白そうだったので購入。この人の本は初めてだった。
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とりわけグローバル企業には、ウォークになろうという顕著な傾向がある。そうした企業が支持する政治的大義には婚姻の平等、ドメスティックバイオレンスへの取り組み、セクハラ対策、人種差別との闘い、LGBTQI+の人々の権利、そしてもちろん気候変動対策が含まれる。
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ウォーク資本主義は民主的な根拠に基づいて反対され、抵抗される必要がある。それは公共の政治的利益がグローバル資本の私的利益によって、ますます支配されるようになるからだ。企業資源の相当な部分が公共道徳を利用されるために充当されるなかで民主主義に問題が生じることになる。わたしたちの道徳性が企業資源として捕らえられ搾取される。
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ウォークの皮を被った人たちによって推進され、ツイッターでライブ中継されるウォーク・オリンピックは複数ラウンドの勝ち抜き戦だ。選手たちは「ウォークでいよう(stay woke)」というフレーズの信者たちだ。このフレーズは人種差別が現れたらそれを名指しするように、さらに言えば遅れている仲間を名指しするようにという注意喚起のメッセージだ。最高の成績を納める選手はレイシスト「である」人たちの名前を、あるいはレイシズムを含み「持つ」事柄の名前を集める人たちである。
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企業、ブランド、有名人はソーシャルメディアのプラットフォームでは特に、善行が世間の人々を強く惹きつけ、したがってウォークであることは売り物になり利益をもたらすことを認識している。
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富が少数の人々にますます集中すると、社会と政治の調和に有害な影響を及ぼす。ピケティは累進課税と富の分配という防御的解決策を提案しているが、ウォーク資本主義は政治的影響力と企業と道徳化によって不平等を維持しコントロールするという、別の解決策を提示している。
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[底辺への競争] 世界的に税率が下がり続ける中で、さまざまな国が減少する一方の法人税収を奪い合うようになること。企業以外の誰にも利益をもたらさない上に不平等が拡大する。
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租税回避は企業の利己主義の問題だと言えるが、政府から企業への権力移行の問題でもある。ベゾスが気候変動対策に寄付した100億ドルは、彼の会社が10年間に納めた税金の3倍に相当する。これは公共問題に関する意志決定が税金を財源とする民主的政府から個人、億万長者へと移行していることを示している。
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Being a Problem Solver Is Like Riding a Bike on Fire
ストワーの仕事は自転車に乗るようなもの。ただし、自転車は燃えている。あなたも燃えている、全てが燃えている。つまりあなたは地獄にいる(アマゾンの倉庫管理者(ストワー)の過酷さを揶揄ったTシャツ)
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[美徳の市場] 倫理的な行動(あるいは少なくとも倫理的な行動に見えること)が、世間が抱くイメージの向上や規制の回避と引き換えになる市場のこと
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[ブランド・アクティビズム] 企業が自らのブランドを政治的大義と一致するように行動すること
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現代のウォークな企業は、自身がアクティビストになりつつある。企業アクティビズムは政治的であるのと同時に商業的である。要するに、企業の価値観やアイデンティティの管理、ならびに評判の確立を目的としたマーケティング戦略なのだ。企業アクティビズムは世論に影響を与え、かつ企業に対する消費者の態度を改善するという2つのも目的を持つことが明らかにされている。
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ウォーク資本主義は基本的に非民主的である。ジレットに政治的姿勢に同意できないからボイコットすると脅した反動的な保守派は完全に的外れだ。自分が賛同する人や組織だけを支持し、それ以外を黙らせようとすることは権威主義へと一直線に延びる道である。本当の問題は、民間の金銭手利害の保有者が、その地位と権力を利用して公共の問題をコントロールするとき、公共の利益の追求ではなく最終的に利潤動機によって導かれるときに発生する。
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メガフィランソロピストたちは、一見慈善活動に見える彼らの事業が従来の事業活動を経る場合よりもはるかにスムーズに政治権力や公共政策の実現へとつながるということ学んだ。実質的には右手で慈善事業に何十億も与える一方で、左手で民主主義と平等という希望を奪うことになるのだ。不平等を生み出す根本的なシステムは何も変わらない。
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以上引用です
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ウォークという言葉は元々「人種差別の事実と、人種間の不平等を生み出す仕組みについての知識を持つこと」でその知識を不平等の根絶に使うためのものだったんだよね。
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それが今では、誰かを「ウォーク」と呼ぶことは不誠実で利己的で薄ぺっらいという意味に歪められてしまった。
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個人ならただの美徳シグナリング、法人なら利益追求のための一手段という意味だ。
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企業は「株主に対してのみ責任を負うべき」という考え方から、ある程度の社会的責任(CSR)も果たすべきという認識は結構なことだと思う。
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しかしながら、多国籍企業は常に政治的信念より経済的利益を優先させる。無能な政府による支配から、強欲なコングロマリットの支配に変わりつつあるということだ。そしてそれは民主主義の崩壊に繋がると。
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つまるところ、社会問題(正義)を食い物にして利益を頂戴するのがウォーク資本主義だ。SNS時代の資本主義とも言えるかもしれない。
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Green washing ならぬ Justice washing といったところか。
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企業は左派に迎合することで支持を得られる。すると保守層は反発して右派の共和党に投票する。ところが保守派が与党になれば、それはそれで減税や規制緩和などの恩恵を受けられる。
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とどのつまり、社会正義(たとえポーズでも)を謳いながら利益も上げられる。どちらに転んでも企業は潤うというロジックだ。
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個人的にメガフィランソロピストを非難するくだりはあまり同意できなかったかな。制度上抜け穴があるとしても、寄付せずに再投資してさらに格差を広げるという選択肢もあるわけだからね。
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ただ1%側の慈善活動というのは99%側の蜂起を恐れているのはあるだろう。なだめ、すかし、施して、怒りの矛先を変えるのだ。
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どれだけ成功しようと殺されたら終わりだからね。格差が広がるほどその可能性はおそらく増える。
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悲しいかな、だからといって国家を信用できるかと言われれば疑問だ。
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国家間における争いでは、軍事的な支配ではなく経済的な支配でも結果「軍事的な支配」と同じになると言われるように、国の支配だろうが企業の支配だろうが、プルトクラシーに支配されるのは変わらない。
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この本「暴力と不平等の人類史」から
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平等は破壊の後にやってくる。
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皮肉にも戦争、革命、崩壊、疫病は複合的に起こると更に速く平等化が進む。これは歴史が証明している。
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そして最後に印象的だったところを。
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現代の資本主義がこれほど大きな不平等を生み出したという事実が、資本主義自体の存続を脅かしているということだ。
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社会正義の問題について教養を身につけようと努めることは、称賛に値し道徳的に優れたことだが、ウォークな個人として他人から認められようと努めることは利己的で見当違いである。
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あまり斜に構えるのもよくないけれど、考えるきっかけにはなると思うよ。
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面白かったです。
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