「語学の天才まで1億光年」を読み終えた。
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高野秀行さんの新刊だ。
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初めて読んだ「謎の独立国家ソマリランド」で衝撃を受けた。それ以来「謎のアジア納豆」など数冊読んでいる。全部面白い印象しかない。
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あのおばあさんマザー・テレサだったのか!英語が皆目わからないがゆえに、世界的な著名人に会ったことすら気付かなかった。
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言葉が通じないと心配するかもしれないけれど、他の人たちはみんなもっと上手です。ちゃんと助けてくれます。
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コンゴには法の下の平等はないが、リンガラ音楽の下の平等はある。
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日本人は言語を「内か外か」で見るが、コンゴの人はそして多くのアフリカ人は言語を階層として見ているのだ。だから格上であるフランス語の語彙は下の階層にどんどん下りていくが、リンガラ語や各民族語の語彙が上の階層に上がることはめったにない。
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言語には「うまく話せる人の方が優位に立てる」という理不尽な法則がある。私はこれを言語内序列と呼んでいる。日本語を話す外国人の友だちと一緒にいて、そういう不愉快な場面に何度も出くわしてきた。だから、日本に暮らして英語の話せる西洋人や一部のアフリカ人、アジア人が日本語をあえて習おうとしない理由の一つはそこにあると思っている。
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現代の言語学界では、世界には言語が七千から八千あると言われている。
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アメリカとイランやアフガニスタンのタリバンが敵対していると聞いても「しょせん同じ語族なのにな」と冷やかな視線を送ってしまうことがある。比較言語学的に見れば内輪揉めなのである。
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[ピジン] ある言語が他の言語と出会って作られた混成言語のこと。「おまえ、長いとき拝見ない。大丈夫あります?」(横浜ピジン)
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[クレオル] ピジンが言語として定着し、多くの人がこれを母語として話すようになること。
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英語ネイティブは相手が話して喜ぶことはないが、理解しないときには苛つく人が多い。英語は世界普遍の言語だと思っているからだ。フランス語ネイティブはフランス語に強い誇りをもっていて、外国人がフランス語を話すこと(話せないこと)に多少なりとも喜んだり苛ついたりする。
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リンガラ語、タイ語、ビルマ語、ソマリ語、アラビア語、日本語など非メジャー言語の話者は外国人がそれを話すと喜び、話せるのかと思っていたら以外と話せなかったと分かると「なんだ」という顔をする。また、言語が下手な外国人を子供扱いしがちだ。私の経験では、ほとんど唯一の例外がスペイン語(とたぶんポルトガル語)だろう。
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タイに溢れる莫大な量の日本のマンガは、チェンマイ大学を含む各大学の日本語学科の卒業生たちによって翻訳されていたのだ。
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ときとして学ぶ者にとって非常に重要な要素が「飢え」である。飢えは極度の主体性を生む。
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宣教師は辺境の村に入ると、まずモノを配ったり病気を治療したりして民心をつかむ。次に行うのが「聖書の翻訳」である。面白いことに、神のためにすべてを捧げて秘境にやって来る人の多くは言語学者でもあるのだ。
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ワ軍の幹部たちは私に「日本人であることを誰にも明かすな」と厳命したがこの指示は意味がなかった。村に住み込むと、私は「何人か?」と聞かれてあっさり「日本人」だと中国語とワ語で答えたのだが、誰も日本を知らなかった。
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結局のところ、純粋に科学的(言語学的)に考えれば「方言」など存在しない。どの地域でも、それぞれの歴史的経緯において生じた言語が存在するだけである。方言はどこかで標準語が作られたとき副次的に生じる、政治的・社会的な産物である。
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翻訳や通訳はガラス越しでの会話みたいなものだ。興味を抱いた他人とガラス越しではなくじかに触れたいと思うことは、人間の本能に根ざしているのかもしれない。互いの心臓の鼓動を聞くような語学は生き続けると、私が確信たるゆえんだ。
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以上引用です
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感想は・・・読むしかない。
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今回もとても面白かった。著者のこれまで世界のさまざまな辺境の地へ赴いた中で、語学に特化した体験記だ。
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「高野節」とユーモアにあふれていてワクワクしながら読みふけった。
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旅行記はまだインターネット夜明け前の話が大半だ。今では指先一つで答えが出ることも、アナログと人のツテを伝ってマイナー言語の習得に励んでいらっしゃるのがすごく印象的だった。
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今でこそユーチューブで「世界のこんなところへ行ってみたー、言語をしゃべってみたー」なんて動画もあるけれど、この人を超える「本物」はそうはいないだろう。
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間違いなくこの分野のパイオニアでありトレイルブレザーだ。
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言語は凄く大事なものだよね。単純に情報や考えを伝えるツールであるだけでなく、言葉を通じて仲良くなったり愛情を深めたりできる。
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一方で言語の支配は民族の支配にも成り得て、使い方によっては経済的、軍事的支配と変わらない強力なソフトパワーにもなる。
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いわゆる Winner takes all で、アプリやツールと同様にアクティブユーザーが多ければ多いほど同化させやすい。
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つまるところ、言語はアイデンティティーでもあると。
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ちょうど先日 Alpha で世界の英語の使用人口でネイティブでない人の割合いのほうがはるかに多い(inner circle で4億人、outer circle で3億人、expanding circle には10億人)という記事を思い出した。
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アメリカの白人よろしく、ネイティブ話者はもはやマイノリティーなんだよね。
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昔はトラベラーズチェック(TC)があったなー(今もある?)
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初めての海外旅行に100ドルのTCを数枚持っていったんだけれど、店員はみんな偽札を見るように上に向けて透かしてみてた(笑)
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(当時アメリカでは既にクレジット決済が一般的で、現金でもせいぜい20ドル札くらいまでしか使われなかったため)
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あとね、有料のメリットの件はすごく共感した。
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MOOC のようなフリーミアムで高度なスキルを学べるのも素晴らしいことだ。しかしながら、新作しかり、スポーツジムしかりで身銭を切るからこそ真剣になるのもまた人間の性だろう。
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これもまた「お金の力」で、逆に利用するのもありかなと。
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語学は特に、やらされてやっていると全然面白くない(笑)
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そして全然身に付かない。
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最後に一番刺さった件を
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美しい言語や美しくない言語もない。フランス語が世界でいちばん美しいとか、中国語が音が汚いとか言う人がいるが偏見にすぎない。どの言語もみんな美しい。
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読むしかない!
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