「亀裂 創業家の悲劇」を読み終えた。
.
.
著者は高橋篤史さんで、週刊東洋経済に12回に渡って連載されていたものをベースに書き下ろしたものらしい。この人の本は初めてだった。
.
.
■
.
.
国税庁の標本調査(2020年度版)によれば、全国278万社余りのうち96.3%は同族会社だ。資本金100億円超の会社をとってみても、その割合いは49.9%を占めている。つまり戦前から生き延びてきた一握りも、戦後次々と生まれたその他大勢も、日本企業のほとんどは創業一族による経営が続いている。
.
.
絶対権力者としての岡田はたがが外れていく。先妻が死去した翌年、岡田は31歳も年下の幸子と結婚した。ただ、ほかにも社内外で愛人を囲っていた。岡田はそのひとりを会社の要職につけることを思い立つ。それに異議を唱えた知裕は取締役から外された。
.
.
2022年5月1日、大塚家具は消滅した。経営危機にあったところ手を差し伸べてくれたヤマダホールディングス傘下のヤマダデンキに同日付けで吸収合併され、その法人登記はひっそりと閉鎖された。
.
.
新体制1年目となる2015年12月期に大塚家具が確保できた営業利益はわずか4億円に過ぎない。一方でプロキシファイトを有利に進めるため公約していた増配は実現しなければならない。年間配当80円に必要な原資は約15億円だから内部留保を取り崩さなければならなかった。
.
.
理屈や理論とは異なる商売の神髄は、久美子にとって霞のように掴もうにも掴めない代物だった。
.
.
17年前の12月23日午後6時半頃、群馬県前橋市にあるヤマダ電機本社の目と鼻の先の横断歩道で若い女性が信号無視の乗用車にはねられ全身を強く打って死亡した。26歳になる山田の長女直美だった。ヤマダ電機に勤めていた直美はいたく優秀で長男傑(まさる)よりも期待するところが大きかったという。山田は亡き娘の姿を久美子に重ね合わせていたのだろうか(買収してなおも久美子を社長として続投させることに関して)
.
.
マック・アオイの本名は武藤薫といい、遅くとも2002年頃から「M資金」の世界に棲息してきた人物らしい。東京の公団マンションにはなぜか3部屋も借り、10以上の銀行口座を操っていた。蔵人(コロワイド会長)がアジア経済協力会議所名義の口座に送金した30億円余りは「ジャパン・ドーリム」なる会社の口座に再送金されるなどし、最終的には武藤が現金で受け取っていた。神奈川県警が自宅マンションに踏み込んだ時、その場に残っていた現金は1億8848万円だったとされる。
.
.
「M資金詐欺」に騙されることは経営者にとって命取りだ。たとえ被害者であったとしても、荒唐無稽な話に引っ掛かった事実は本人の能力や信用にもかかわることだからである。
.
.
佐竹の家柄はひときわ目を引くものだった。祖父は終戦後にA級戦犯として弾劾され巣鴨プリズンで最後を遂げた陸軍出身の元首相、東条英機であり、父はその二男で戦時中は航空技術者としてゼロ戦の開発にあたり戦後は経営者として三菱自動車工業の社長も務めた輝雄なのである。
.
.
(セイコーホールディングスの)桃花会に女性親族の姿はなかった。創業者の金太郎は妻まんとの間に4男11女をもうけるという子だくさんだったが、以降、一族は家父長的な考えに強く縛られてきたとされる。相続においてこの考えはとりわけ色濃く、女性親族にはごく一部の例外を除いて資産管理社の株は分け与えられてこなかったという。
.
.
相次ぐ事業失敗にも(盛田)英夫はあっけらかんとしていて悲壮感などどこにもなく、平賀からすれば、仰ぎ見る上流階級でありまるで貴族かのようだった。海外に行く際はプライベートジェットで移動し、日本国内ではアライに行くのも、週末に家族が住む名古屋の自宅に戻るにも、東京新木場の駐機場からヘリコプターを利用していた。
.
.
自社株TOBの直前、複数の手駒で買い占めを行いながら、最後、受け皿法人1社にそれらは集約されていることが多い。そうすることで、みなし配当部分を益金に算入しなくて済む割合が高まり、逆に多額の譲渡損失を損金に計上し納税額を圧縮することができるようになるのだ。まさに裏技的な錬金術だ。
.
.
以上引用です
.
.
■
.
.
感想は・・・面白い!
.
ある意味、本家を超える「ファミリーストーリー」だ。
.
創業家の騒動をまとめたもので、誰もが知っている名だたる企業や上場企業ばかりだ。大戸屋や、HISなど知っている話もあったけれど、とても丁寧に調べられているのですごく深く読めると思う。
.
.
うまく行くケースと、うまく行かないケースの違いは何だろう?
.
一つは、創業者の力が強すぎて外部の力が働かないことだろう。
.
会社を私物化して監査する側もなあなあになってしまう。そうなると「M資金詐欺」のような詐欺にも冷静に対応できなくなる。
.
実際、トップの独断でコロワイドは30億円、澤田ホールディングスは40億円の詐欺にあっている。
.
風通しが悪く、いわゆるサイロ化していくと。
.
この辺は「サイロエフェクト」が面白いです。ワンマンの良さはある一方で、それだけじゃ傾いていくんだろう。
.
.
お次は相続。
.
昨今は後継者不足で、中小企業でもM&Aが活発に行われているよね。仲介プラットフォームもたくさんある。
.
創業者が不慮の事故で亡くなったり、病気で先が長くなかったりすると権力をめぐって相克する。つまるところ、親族内プロキシファイトで典型的な骨肉の争いだ。
.
三国志しかり、イギリス王室しかりで、血が繋がっているからこそ意固地になるのかもしれない。
.
企業のトップを務めるエリートたちが、経済合理性を無視してまで破滅的な行動に出る様はまるで喜劇のようだ。
.
.
最後は後継者の力不足なのかなと。
.
ジャパン・フード・リカー・アライアンスはソニー創業者である盛田昭夫氏の長男英夫が率いていた上場企業だ。
.
・・・
・・・
・・・
.
こんなどら息子だとは知らかった(笑)
.
起業もダメ、F1参入もダメ、家業を継いでもうまくいかない。
.
.
裁判に証拠提出されたカードの利用明細を見ると、未払い直前である2013年暮れの段階でも英夫の蕩尽ぶりは少しも改まっていないことが分かる。12月10日には銀座の「バーニーズニューヨーク」と「銀座かねまつ」でショッピングを楽しみ約56万円を支払い、同月16日には名古屋で高級ブランドの「ロエベ」と「ルイ・ヴィトン」に計66万円、さらに同月20日には「ザ・プリンスパークタワー東京」で約98万円を利用 --- そんな具合である。これらはほんの一例でとてもではないが資金繰りに詰まった人間の使い方ではなく、もはや呆れるしかない。
.
.
挙句の果てに、個人の借金を法人に肩代わりさせて公益法人の財産をその会社に流用する。そして結局会社を去ることに。
.
あくまでも一般人の推測だけれども、ある程度の家系に生まれると普通の生活は送れないというか許されないんだろうな。
.
.
お金があるところには、それだけ悪党も集まる。
.
そして、人はカネを持っていてもカネに殺される。
.
そんなお金の魔力も感じさせる内容だった。
.
■
.
橘玲氏の「マネーロンダリング入門 (幻冬舎文庫) 」あたりを読んでおくとより面白く読めると思います。
.
面白かったです。
.
.
コメント