「統合失調症の一族」を読み終えた。
.
.
著者はロバート・コルカー氏で、アメリカのジャーナリストで作家だそうだ。この人の本は初めてだった。
.
.
■
.
.
ドナルドは今はクロザピンを服用している。言わば最後の手段となる向精神薬で、非常に効果が大きいのと同時に、心筋炎や白血球の減少、さらには痙攣発作といった極端な副作用の危険も大きい。
.
.
統合失調症に関して最も恐ろしいのは --- そして、いかにも本人らしい性格特性が薄れたり消えたりしがちな自閉症やアルツハイマー病といった他の脳の病気と統合失調症を一番はっきり隔てるのは --- ひどく露骨に感情的なものになりうることかもしれない。
.
.
フロイトはこの疾患は完全に「心因性」、すなわち無意識の産物であると確信していた。患者の無意識は人格形成が行われる子供時代の経験 --- ごく頻繁に、性的な性質を持つ経験 --- によって形作られたり傷つけられたりした可能性が非常に高いという。それに対してユングは統合失調症は少なくとも部分的には生物学的疾患であり家族から遺伝的に受け継がれた可能性が非常に高い疾患だと考えた。
.
.
彼ら(統合失調症患者)はコカインやマンガンやヒマシ油を無理やり服用させられたり、動物の血液やテレピン油を注入されたり、二酸化炭素あるいは濃縮酸素を吸わされたりした(いわゆるガス療法)
.
.
[統合失調症誘発性の母親] 冷淡、完璧主義、不安、過剰管理、抑圧的な母親象のこと。よそよそしくて支配的な母親がいることに疑問の余地はないものの、そういう人のほうが統合失調症の子供を持ちやすいという証拠はない。
.
.
彼は人々をコンピューターのパンチカードのように思っていた。順に並べてコンピューターに通して自分が使える情報を取り出すカードのようだ、と。そして、そういう自分が普通ではないことを知っていた。
.
.
焚き火を走り抜けた、コードを首に巻いた、ガス栓を開いた、棺の値段を調べに葬儀場に行きさえしたと言うが、そのどれ一つとっても適切な動機を挙げられなかった。
.
.
ジムは眠らなくなった。夜はコンロの前で過ごし火を付けては細め、消し、また点火する。こういう状態のときには衝動的に乱暴に振る舞った。キャシーや息子に対してではなく自分自身に対して。
.
.
「こいつらはだいたい精神病質者だ。奴らはやりたいことは何でもできる。主にセックスと楽しい時間と酒を欲しがっている。何もすることがないと、とんでもなく卑劣なことをやらかすので何かに没頭させておかないといけない」
.
.
遺伝の関与を強調する人は、環境が果たしているかもしれない役割を本気で考慮することがめったになく、環境が原因と考える人は大抵、遺伝的要因もいずれ考慮に入れるべきかもしれないという考え方には口先でしか同意しない。
.
.
姉妹は幼過ぎて、ジムがしているのが正しいことではないと確信できなかったのだ。なぜなら、二人のうちどちらに対してもそういう行為をしてみようとした兄はジムが最初ではなかったからだ。
.
.
マーガレットには、自分が正しい選択をしていないことがわかっていた。ろくに知りもしない男性と明日、結婚しようとしているのだ。だが、他にどんな選択肢があるというのか?ワイリーの所に飛んで行く?彼の肩にすがって泣く?兄の一人に長年、性的虐待を受けた事、別の兄が自殺したこと、その二人と同じような兄がさらに四人も家にいることを彼に告げるのか?
.
.
(ガラスの学士の)主人公は村の愚か者で、彼がまくしたてる不快な真実を馬鹿げた妄想として笑い飛ばせる間は周りの人に親切に扱われていた。だが、彼が正気を取り戻すと、村人たちは彼が立ち直るのを妨げる。彼の言う事をすべて急に真剣に受け止めなくてはならない羽目に陥らずに済ませるためだ。
.
.
[ストレス脆弱性仮説] 生まれが育ちによって活性化されるという考え方
.
.
[エピジェネティクス] 遺伝子が環境によって活性化されるという考え方
.
.
[多発家系] 家族のうちで統合失調症の人だけに現れ、その他の健常な人には現れない遺伝子異常を見つけること。統合失調症が遺伝的なものの証明になる。
.
.
[感覚ゲーティング障害] 入ってくる情報を正しく処理する脳の能力(あるいはその欠如)に問題があること。
.
.
自分の家族のことを思うと気が滅入る。みんなは多くの形で私の進路を妨げる。私は兄たちの狂気で身動きが取れない。そんなものを無視しようとしながら人生を送るしかないなどということは誰にとってもあってはならないはずだ。
.
.
[街灯の下で、失った鍵を探す] 失くした場所ではなく、明るくて探しやすい場所で探すこと(肝心の箇所は研究する方法がないので、研究する方法があるそれ以外の箇所を調べることの揶揄)
.
.
兄弟姉妹が統合失調症になった人は、自分も統合失調症になる可能性が通常よりもはるかに高い(実際、10倍の可能性がある)とはいえ、親子の間や伯父、叔母と甥や姪との間にはそれは当てはまらない。
.
.
ジムの死の教訓は明らかだった、抗精神病薬での治療は疾患と同じぐらい良くないのだ。
.
.
薬はきちんと服用すれば、さらに精神の錯乱を起こすのを防ぐ可能性がある(ただし、長期的な副作用の危険がある)が、投薬計画に従い続けている患者は、そうでない患者と同じくらい頻繁に病気が再発する。
.
.
ゲノムの三つの異なるSHANK遺伝子(SHANK1、 SHANK2、SHANK3)の研究をひとまとめにして眺めると、精神疾患の少なくとも幾種類かは、単一のスペクトル上に存在していることが窺えた。特定のSHANKに変異がある人には、自閉症の人がいる一方で、双極性障害の人も、さらには統合失調症の人もいるのだ。
.
.
コリンは野菜や肉、卵など私たちが日々摂取する多くの食品に含まれている。妊娠中の女性は、コリンを胎内の子供に毎日の栄養の一部として羊水を通して与える。
.
.
私たちの文化は疾患を、解決するべき問題と見なす。どんな病気もポリオのようなものであるかのように思い描く。絶望的なまでに治療不能だったのに、やがて奇跡の薬が現れて地上から一掃してしまうことが可能になるのだ、と。当然ながらこのモデルはめったに当てはまらない。共同する気が無ければ、誰もが視野が狭くなり確証バイアスに陥りやすくなる。
.
.
「この子このような道を進み、これほどうまくやっているのを見ると、どれほどたやすく正反対の道をたどっていたかもしれないかが分かります。もし兄たちが、何かこうしたことをする機会に恵まれていたならこれほど病気が重くなっていなかったかもしれません」
.
.
以上引用です
.
.
■
.
.
めちゃくちゃ面白かった。
.
ギャルヴィン一家と統合失調症の戦いをまとめたドキュメンタリーだ。兄弟姉妹12人のうち6人までもが精神に異常を来してしまう。
.
家族めいめいの生い立ちから現在までとても丁寧に書かれていて食い入るように読み耽った。ある意味、ギャルヴィン一家の伝記でもあると思う。
.
.
兄弟姉妹のうち統合失調症を発症したのが上の6人で、発症しなかったのが下の6人だ。
.
.
ドナルド(長男)
ジム(次男)
ブライアン(4男)
ジョセフ(7男)
マシュー(9男)
ピーター(10男)
.
ジョン(3男)
マイケル(5男)
リチャード(6男)
マーク(8男)
マーガレット(長女11人目)
メアリー(次女12人目)
.
*自分調べ
.
.
上にも書いたように、兄弟姉妹が統合失調症になった人は、自分も統合失調症になる可能性が通常よりもはるかに高い(実際、10倍の可能性がある)。ギャルビン家の場合は6:6になっている。
.
.
父親のドンと母親のミミは、いわゆる「事なかれ主義」で世間体を何より気にかけている。家族の綻びも見てみぬふりをして、自らの保身を第一に現実を直視しないんだよね。特にミミは完璧主義の印象が強かった。
.
今風に言うなら「親ガチャ」だろうか。
.
ちなみに物を捨てられない「ホーダー」は完璧主義の人が多いんだよね。完璧すぎるからこそ、適当にお片付けができない。だから不要な物を溜め込んでしまうと。話がずれた(笑)
.
さらに遺伝的な要因もあるようだ。サイコロを振った結果、吉とでるか凶とでるかは偶然でしかない。
.
こちらは今風に言うなら「無理ゲー」だろうか。
.
.
世界中では推定100人に1人が統合失調症に罹っていて、全世界では8200万人いるそうだ。そして統合失調症の成人のうち4割が全く治療を受けていなく、20人に1人が自殺する。
.
驚いたのは、100年以上経っても治療法に大きな進展がなかったという点だ。
.
今は最新の研究と遺伝学で、投薬とカウンセリングのハイブリッド予防、そして子宮内にいるうちに精神疾患の芽を摘んだりできるそうだ。
.
将来的に、同一スペクトル上にあると言われている自閉症や双極性障害、そして統合失調症は一緒に治療できるようになるんじゃないかな。
.
ガンやHIV、アルツハイマーと同様に、精神疾患も過去の病気になるといいよね。
.
ほんとにそう思う。
.
今の医療は過去の数多の非人道的な扱いを踏み台に成り立っているんだから。
.
.
読み終えて一番感じたのはギャルヴィン家の家族愛だ。
.
父親のドンは確かに厳格だったんだけれど、類まれな才能で成功し、石油王のサム・ゲイリーと親しかった。
.
サムとナンシーの支援を受けれてなかったら、今のギャルヴィン家は無いだろう。これはドンの最大の功績だと思う。
.
母親のミミは、生涯を通して家族に無償の愛情(時には歪んでしまったけれど)を注いできた。少なくとも子どもたちが大きくなって「母親に愛されていたな」と、そう思えるくらいには。
.
.
あとはメアリー(リンジー)だ。あれだけ過酷で強烈な幼少期を送っても、晩年は率先して家族のサポートに全力を尽くしたんだよね。
.
少し引用すると
.
.
彼女は思いがけない残酷な運命が自分は見逃してくれたものの、兄たちを襲ったことにひどい負い目を感じていた。
.
.
もう泣けるわ・・・
.
姉のマーガレットがナンシー夫人に引き取られて、メアリーがひとりモンスターハウスに取り残された時の気持ちを考えるや胸が張り裂ける。この物語の主人公だよ。
.
そしてラストがまた感動的だった。もうノンフィクションじゃなく映画のエンディングだ。
.
.
最後に一番刺さった件を
.
.
生物学的特性は、ある程度まで宿命でありそれは否定のしようがない。だが私たちには、周りの人々 --- 私たちが取り囲まれて育つことを余儀なくされた人々や、後にいっしょにいることを私たちが選んだ人々 --- の産物であるという面がある。人間関係は、私たちを破滅させることがありうるが、私たちを変え、回復させることもありうるし本人が全く気付きもしないうちに私たちを特徴づけることもありうる。私たちが人間らしさを備えているのは、周りの人々が私たちを人間たらしめているからにほかならない。
.
.
「生まれか育ちか」は「薬かセラピーか」にも似ているかもしれない。決して二者択一で白黒は付けられないものなんだろう。
.
読むしかない!
.
.
コメント