「アルツハイマー征服」を読み終えた。
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著者はノンフィクション作家でジャーナリストだそうだ。この作者の本を読むのは初めてだ。
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日本でも1960年代当時の平均寿命は男性で65才、女性でも70才だった。つまり、アルツハイマー病を発症する前に多くの人は他の要因で亡くなっていた。
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母親なり、父親なりが家族性アルツハイマー病の突然変異(プレセニリン1や2)を持っていると50%の確率で遺伝し、その遺伝子変異を受け継げば100%発症する。
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アルツハイマー病の患者は、盗まれてもいないのにものを盗まれたと思い込んだりする「ものとられ妄想」や怒りっぽくなって暴れるなどの時期を経てやがて多幸期と呼ばれる時期に入っていく。
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[タイトレーション] 副作用を克服するために薬を連続投与することによって「慣れ」を作りだすこと。
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研究においては、その分野に人が集まりお金が集まることが必須のことなのだ。
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データによるとAβ(アミロイドベータ)は発症の20年以上前から溜まり始めていた。タウ発症の前の10年前から急速に増える。海馬の体積が減り始めるのは10年前からだ。CDR、MMSE等の認知機能は発症の15年から10年前に低下していた。
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「一番になってはいけない」と言われたのには理由があった。アカデミアと違い、産業科学の世界ではそれが治験を通り実用化されなくてはならない。しかし、フロントランナーは投与量も副作用もまったくわからない状態で治験に入るために失敗に終わる場合が多かった。
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アルツハイマー病の進行はゆっくりとだが、確実に進む。
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以上引用です
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感想は・・・とても読み応えがあった。
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プロローグで完全に引き込まれて、他の用事もほったらかしで読みふけってしまった(笑)アルツハイマー病の成り立ちから、熾烈な治療薬の開発競争、そして何より罹患した患者やその家族の苦しみがよく分かる。
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以前読んだ本で認知症の症状のアミロイドベータは聞いたことがあったが、この本を読むとそのメカニズムがさらに理解できる。
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まずアルツハイマーは大きく「家族性アルツハイマー」と「孤独性アルツハイマー」の二つに分かれるそうだ。
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前者はアルツハイマー発症の遺伝子を持っていて代々受け継がれるパターンで、後者は遺伝的ではないが結果的に発症してしまうケースだ。
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病気を次代に残したくないという夫婦には2つの選択肢があります。ひとつは子どもを作らないこと。そしてもう一つが着床前診断です。体外受精した卵の遺伝子を調べてみて、もし遺伝子が受け継がれていることがわかったらば、その胚は流し、受け継がれていなかったら子宮に着床させて遺伝子を受け継がない子どもを産むという方法です。
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前者の場合はこの着床前診断の適用範囲が拡大されれば苦しむ人がかなり減るだろうね。
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出産前に命の選別をすることは倫理的な問題もあるかもしれないが、科学的にアルツハイマー遺伝子が特定されていて、なおかつそれを取り除けば発症しないなら有意義なテクノロジーの使い方だと個人的には思う。
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金持ちの道楽でデザイナーベイビーを作るのとはわけが違うのだ。
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今一番ホットなアルハイマー病の治療薬は「アデュカヌマブ」だ。日本の製薬会社エーザイとバイオジェンが共同で治験を行っていて早ければ今年に承認されるそうだ。
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Aβのドミノの一枚が崩れるのはもうすぐそこなのだ。
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あとこの本を読みながら小さいときに読んだ漫画「ブラックジャック」で「かぜ、水虫、がんのいずれかを根治できればノーベル賞が取れる」と書かれていたのを思い出した。もう30年以上前だと思う。
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今や時代は流れてコロナウイルス、がんに続いてアルツハイマーすらも治療できる病気になるんだろうな。
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長生きしてみるもんだなと(笑)過去の病気になるといいよね。
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あともう一つ、生涯をアルツハイマーの治療に捧げてきた研究者ラエ・リン・バークがアルツハイマーに罹ってしまうエピソードが切なくていたたまれなかった。
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この本を読んでいると研究者は短命の人が多いのかなと思ってしまう。
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似たようなノンフィクションでは「合成生物学の衝撃」が CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)の凄さがよく分かります。あとジャンルは違うが「しんがり」も思い出した、こちらも面白い本です。
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興味のある方はどうぞー
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