失われゆく我々の内なる地図 空間認知の隠れた役割

読書

「失われゆく我々の内なる地図 空間認知の隠れた役割」を読み終えた。
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著者のマイケル・ボンド氏はサイエンスライターであり編集者らしい。面白そうだったので購入。
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原題は「Wayfinding - The art and science of how we find and lose our way」だ。こんな本好きです。
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(ホモ・サピエンスと比べて)それほど遠くまで旅しなかったネアンデルタール人のほうは、空間スキルを育むことは決してなかった。高度な技術を持ったハンターであり、寒さによく適応し、暗闇でものを見るとことができたにもかかわらず、彼らはサピエンスを除く人類のすべての種と同じく、サピエンスがヨーロッパに住むようになってから数万年以内に絶滅した。
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あるとき彼は、イヌイットのハンターと一緒にイグルーリクの近くを旅した。そのハンターが25年前に叔父と一緒に仕掛けた狐の罠を回収するためだ。罠は全部で7個ありいずれも深い雪に覆われていた。約20平方キロメートルにわたって散在していたそれらの罠をすべて彼は地図も無しに2時間で見つけ出した。
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漂流者は何を食べていたか
「漂流者は何を食べていたか」を読み終えた。 . . 小説新潮に連載されていた話を一冊にまとめた本らしい。 . . ■ . . もうひとつのポケットにはライフラフトの使用説明書が入っていたが、これは「士気を高めること、指導者の統率力が必要なこと、救助を待つべきこと」などがくどくど書かれているだけで大洋の真ん中で生き延びるにはどうしたらいいか、などという具体的な対処法につ...

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車にひかれて死んだ子どもの数は、交通量の増加にもかかわらず実際には減っているが、その理由は道路がそこそこ安全になったからではない。道路にはもう子どもがいないのだ。
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実は子どもは知らない人よりも、知っている人々、なかでも親や義父母によって殺されたり、危害を与えられるケースの方がはるかに多い。
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子どもの頃きわめて狭いホームレンジで暮らした人は大人になると、ナビゲーション行動に不安を感じるようになる。そのことは特に少女に当てはまることが多い。
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頭方位細胞システムは、脳のコンパスと言われ、頭が特定の方向に向いているときに活性化する。異なる方向に反応する頭方位細胞がたくさん一緒になって360度カバーする。くるりと一回転すればそれにともなって異なる頭方位細胞が次々に発火するだろう。頭方位細胞は厳密に協調されており、ある環境で細胞Bが、細胞Aが発火する頭の向きの右側で発火するなら、すべての場所で同じように発火する。言い換えると方角(東西南北)には反応せず、その代わりにランドマークにみずからを合わせるのだ。
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迷路の中のラットを長い間研究している脳神経学者は、ラットの脳内の場所細胞がどう発火しているかを注意深く見るだけで、その動物がどこにいるかセンチ単位で分かる。
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何を記憶するのにしても、場所と結び付けると簡単に覚えられる。とんでしまった記憶を思い出すためのコツは、それを覚えた場所に戻ることだ。
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極度の神経症や低い自己評価に悩んでいる人は、認知地図を形成して空間のランドマーク同志の関係を認識することが特に困難だ。そのわけはほぼ間違いなくストレスホルモンが海馬の場所細胞を弱体化させるためであろう。
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GPSを持たずに、A地点からB地点まで馴染みのないルートに沿って向かって戻るのは認知に課せられた仕事のうちでもっとも複雑で難しいもののひとつである。周りの環境に周囲を払い、景観の特徴とそれぞれの関係を把握し、距離を計算し、自分の動きを調整し、向いている方向を知るとともにその変化に気を付け、ルートを計画しつつ、常にそれを変更する心構えをしあらゆる種類の感覚情報を処理する必要がある。当り前だが、それには脳の多数の領域が関わってくる。脳梁膨大後部皮質は動かないランドマークを選びだし、頭が向いている方向を局所的な地形と関連づける。海馬と嗅内皮質は認知地図を作り上げルートを処理する。前頭前皮質は意思決定とプランニングを助ける。海馬傍回場所領域と後部場所領域は、光景の視覚情報を解釈する。そして後部頂皮質は、視覚及び空間の知覚と協調を担当する。
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1万2,000人以上について調査した結果、すぐれた方向感覚の持ち主は、外向性、誠実性、そして開放性(新しい経験の受容性)が高く、神経質傾向が低いこということが分かっている。
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Santa Barbara Sense of Direction Scale (SBSOD) | Hegarty Spatial Thinking Lab | UC Santa Barbara

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空間にかかわる男女間の思考の違いは、脳機能というより文化に起源がある。言い換えれば生物学的な性別ではなく社会文化的な性別による違いなのである。
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2009年、ヤン・ソーマンはサハラ砂漠とドイツのビエンヴァルトとの森でボランティアにGPS追跡装置をつけてまっすぐに歩くように指示した。太陽が見えなくなると、全員がまっすぐに歩けなくなった。誤差がたちまち蓄積し、小さな方向のずれが大きくなって彼らはぐるぐると円を描いて歩くはめになった。ソーマンは、外からの手がかりが何ひとつなければどれほど歩いても出発地点から100メートル以上は進まないという結論に達した。
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道に迷ったとき、一番分別がある行動はその場にとどまることだが、たいていの人は衝動に駆られて動きまわりなんとか現状を打開しようとして知らないところに入り込む。迷った人々の話によるとこの衝動は抵抗できないほどだという。
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迷った人が方向感覚だけでなく、冷静さも失うのはごく普通のことである。捜索隊に発見された人が隊のそばを催眠術にかかったように歩いていったり、逃げていくので追いかけてタックルしたという話は、捜索救難仲間での語り草になっている。基本的にはわけが分からなくなっていて、自分に何が起こったのかほとんど覚えていない。
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統計から分かったのは以下の通りである。まず、道に迷って生きて見つかった人は、だいたいのところ建物の中や「旅の味方」(道路、線路、小道、けもの道)にたどり着いたところで発見される。遭難した人のうち生きて見つかる割合いは、子どもは96%、大人は73%である。また家からさまよい出る人々は、自分が長期間外に出るとは思っていないため、服装や持ち物が十分でない場合が多く、風雨や厳しい気候にさらされて悪天候では死亡リスクが高くなる。ひとりで歩く男性ハイカーは、いったん迷ったら他のケースよりも遠くまで進む。しゃがみ込んで休むのを嫌い、誰かが彼らを見つけるまでただひたすら歩き続けるのだ。
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記憶の科学 しっかり覚えて上手に忘れるための18章
「記憶の科学 しっかり覚えて上手に忘れるための18章」を読み終えた。 . . 著者は作家で、神経科学者のリサ・ジェノヴァ氏だ。 . 著書「アリスのままで」はジュリアン・ムーア主演で映画化もされたらしい。この人の本は初めてだった。 . . ■ . . 記憶には様々な種類がある。今この瞬間の記憶、物事のやり方の記憶、知識の記憶、起きたばかりの出来事の記憶、予定した...

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GPSに頼るばかりで自分の行く道に注意を払わないと海馬を使わないことになる。海馬はナビゲーション能力と空間スキルだけでなく、エピソード記憶をはじめ重要な認知機能を動かす領域である。テクノロジーに頼るのは、尾状核が担う反射的な空間戦略の使用を促し人々をロボットのように行動するように仕向ける。
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空間アプローチの練習をすれば、普通は年齢とともに訪れる海馬の衰退を予防できることが分かっている。注意深くナビゲーションを行うことだけが海馬を活性化させる方法ではない。だがそれはきわめて効果的な方法なのだ。空間アプローチが海馬を強化すること、そして強靭な海馬を持つことが認知機能全般に良い効果がある。
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以上引用です
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面白い!
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ワクワクしながら読ませてもらった。
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自分は田舎に住んでいたので小学生の頃は毎日外で遊んでいた(ファミコンが登場する前は特に)ときには友人と自転車で、あぜ道を横切り、路地裏を通り抜けて隣町まで行って迷子になったこともある。
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振り返ると「エブリデイ・スタンドバイミー」みたいな日常だったと思う。
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今なら誘拐されてもおかしくないだろう。
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そんなウェイファインディグ(道を見つける力)は、人間が古くから生き残るために進化させてきた重要な能力で、ひいてはメンタルや認知機能にも影響を及ぼすことが分かってきているそうだ。
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狩猟時代、大自然の中で方向を見失うことは命にかかわる危険だったんだろう。
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一番驚愕だったのは格子細胞の件だ。
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格子細胞は、人が空間内を動くときに脳のニューロンが発火して現在の空間の位置を捉えるそうだ。
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しかも、正確な六角形のパターンを描いて。
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つまるところ、意識せずに、通ったルートの空間と距離関係を脳内で規則正しくマッピングしていると。こんなことありえる?!すごすぎるわ。
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なのになんで迷うの?(笑)
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スマホやナビのGPSは便利だよね。
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自分の居場所はもちろん、最短ルート、所要時間、混雑状況までリアルタイムで教えてくれる。今やグーグルマップが無い生活は考えられない。
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しかしながら、ナビゲーションは、記憶、集中力、自信などをはじめ多くの能力が必要な認知プロセスで、それらを利便性と引き換えにGPSへ売り渡す代償は大きいようだ。
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つまるところ、空間を読み解き移動することで認知は豊かになると。
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知らない土地を旅したり、山に登ったり、道路を一本外れてみたり。そう考えると長期的にみた幸福というのは、テックとは乖離したところにあるのかもしれないね。
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空間記憶と経路積算のスキルは個人差もあり、19歳を超えると毎年少しずつ着実に低下する。朗報はウェイファインディグのスキルは意識さえしていれば年齢に関わらず向上できることだ。
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アルツハイマー征服
「アルツハイマー征服」を読み終えた。 . . 著者はノンフィクション作家でジャーナリストだそうだ。この作者の本を読むのは初めてだ。 . . ■ . . 日本でも1960年代当時の平均寿命は男性で65才、女性でも70才だった。つまり、アルツハイマー病を発症する前に多くの人は他の要因で亡くなっていた。 . . 母親なり、父親なりが家族性アルツハイマー病の突然変異...

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個人的に地図を見るのが好きだ。実際に行くことはないかもしれないけれど、あれこれ想像を膨らませるだけでもワクワクする。
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おそらくは、人生の序盤にたくさん回り道して迷ったほうが、晩年は文字通り「徘徊する」可能性は小さくなるんだろう。
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GPSとのうまい付き合い方も書かれているのでぜひ読んでみて欲しいな。
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大変面白かったです。

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