「世界はなぜ地獄になるのか」を読み終わった。
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橘玲氏の新作。タイトルが面白そうだったので購入。
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キャンセルカルチャーの特徴は、キャンセルされるような地位についた者が攻撃の対象になる一方で、同じことをしていてもキャンセルできる地位になければ無視されることだ。
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英語圏では「ブラック」をネガティブな意味で使うことは人種的差別と見なされる。日本在住の黒人などがブラック企業、ブラックバイトなどの用語に抗議した。本来であればブラック企業批判を行ってきた社会活動家らが、より政治的に適切な言葉に言い換えるべきだが、いまだにそうした提案はない。
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日本は「下級熟練労働者」つまり平社員の死亡率が、管理職、専門職の約7割でもっとも低くなっている。
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成功ゲームや支配ゲームをうまくプレイできない者たちが、大挙して美徳ゲームになだれ込んでくるようになった。自らを被害者と位置付け、正義の名の下に他者を糾弾することは、社会的、経済的地位に関係なく誰でもできるし、SNSは匿名かつローコストで可能にした。これで「正義というエンターテインメント」を存分に楽しめる。
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[Woke] 「目覚めた者」という意味での、日本でいう社会問題に意識高い系の人達。ウォーク。
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上方比較を損失、下方比較を報酬とする脳は、ステイタスの高い者を「正義」の名の下に引きずり下ろすときに極めて大きな快感を得る。しかしその一方で、わたしたちはステイタスの高い者に憧れ、権威や権力に従うという強い向社会性を持っている。5歳の子どもですら、能力の低い親切な大人より能力の高い見知らぬ大人の判断を重視する。
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「将来、誰でも15分は世界的な有名人になれるだろう」アンディ・ウォーホル
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この文章を読んでいる多くの人は、統計的には日系日本人(97%)、異性愛者(95%)、シスジェンダー(性自認と生物学的な一致すること)(99.5%)だろうが、日本社会には異なるアイデンティティ持つマイノリティーもいる。
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批判的人種理論(CRT)では白人は「白人」とあるというだけで人種差別の罪を生涯背負わなければならないし、交差性ではより多く差別されている者がより大きな正当性を持つ。白人女性のフェミニストよりブラックフェミニストの言葉が重視されるべきだし、黒人女性の同性愛者はより大きな正義を主張できることになる。
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[TERF] トランス排除的ラディカルフェミニスト(Trans-Exclusionary Radical Feminist)の略で、生物学的な男性として生まれ、ジェンダー移行したトランス女性を「女性」とは認めないこと。
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トランスジェンダーは人口の0.5%程度しかいないマイノリティで、オートガイネフィリア(男性が女性に転換後も、女性を性対象とする性的指向)のトランス女性はその一部だ。その中には性別適合手術をした女性もいるから、一般の女性が性別適合手術をしていない(ペニスを持つ)同性愛者のトランス女性と遭遇する確率はきわめて小さい(メディアによってトランス女性の存在が過大に意識されている)
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DEIは多様性(Diversty)、公平性(Equity)、包摂(Inclusion)の略で、アメリカの教育機関や企業、行政はDEIを推進し、差別されているマイノリティに配慮することを求められている。これがいまや新左翼のゴールドラッシュになっている。
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キリスト教徒は地獄を作り出すことによって救済への不安を生み、それから逃れられる唯一の方法として自分たちのゲームを提示した。同じように、新左翼の活動家たちは、偏見だと非難してもよい条件を根本的に書き直し、単に男性は白人であることが罪の兆候になるようにハードルを下げることで地獄をちらつかせる。こうして救済への不安を生みだした上で、自分たちの運動を唯一の救済策として提示するのだ。地獄の脅威から逃れるためには、これ見よがしに熱心に、非常に正しくプレーするしかないのだと。
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以上引用です
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最近の実例を取り入れながら、どういった経緯で、なぜキャンセルカルチャーが生じるのかを紐解いていく感じだろうか。
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帯にあるキャンセルカルチャーとは、公職など社会的に重要な役職に就く者に対して、その言動が倫理、道徳に反しているという理由で辞職を求める運動のことだ。
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特にリベラルと保守、マイケル・サンデルを引用しながらのリバタリアンとコミュニタリアンの考察が面白かった。
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個人的に印象の残っているのは、ハリーポッターの著者であるJKローリングのキャンセルだ。彼女は女性トランスに疑問を呈したんだよね(TERF)
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その意図は、トランス自体を否定している訳ではなく「中にはトランス女性が女性をレイプするケースもありますよ」というひとつの意見だった。にもかかわらず、釈明後も炎上は治まらなかった。
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私たちはいま、大衆の大いなる狂気を目の当たりにしている。最近では誰もがそう感じているように、文化全体に地雷が仕掛けられている。(ダグラス・マレー)
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マレーはゲイ、女性、人種、トランスジェンダーを現代社会の地雷原として、近づかないようにと警告している。
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これらのテーマを誤解なく140文字で伝えることができて、かつケツを拭ける技量が無ければ辞めておいたほうが無難だということだ。
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有名で地位や権力がある人ほど標的にされやすく、一般人が揚げ足を取られて失脚することはあまりないかもしれない。
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それでも最適な戦略は、センシテイブな問題から距離を置くことだろう。
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さらに言えばレフトにはキャンセルさせることで、資金を集め私腹を肥やしている輩も一定数いる。
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つまるところ、マイノリティー自体が救われているようで食い物にされているのだ。
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言論の自由がある一方で社会正義を優先する世の中と、言論の自由はなく誤った種類の言論は抑圧されるのはどちらがいいだろう。
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一般的に、自由になればなるほど責任の度合いはあがる。
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もし前者を選ぶのなら、寛容さと民度が問われるのかもしれないね。
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ちなみに、著者は「リベラルな社会では異なる正義に優劣をつけることはできない」と述べている。そしてこの世界の仕組みを理解して適用するしかないと。
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大半の人は日々のトピックに目くじらを立てて、重箱の隅をほじくるように糾弾することは少ないんじゃないだろうか。
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そんなに暇じゃないだろう。
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具体的な例が挙げられているので、とっつきやすいと思います。
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興味のある方はどうぞー
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