「セックスロボットと人造肉 テクノロジーは性、食、生、死を征服できるか」を読み終えた。
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著者はイギリスのジャーナリストで、ドキュメンタリー制作者だそうだ。
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原題は「Adventures at the Frontier of Birth, Food, Sex and Death」でこの人の本は初めて読んだ。
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ハーモニーの人格には20の異なる要素があり、オーナーは興味を惹かれる5、6種類の要素を選んで組み合わせ、それがAIのベースとなる。たとえば、優しくて無邪気で、シャイで不安定で嫉妬深い性格にもできるし、知的で話好き、ユーモアに満ちて甲斐甲斐しく陽気な性格にもできる。
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[ベイパーウェア] 発売は発表されたものの、いつ完成し発売されるか分からないソフトウェアまたはハードウェア
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たとえば、Siri、アレクサ、ハーモニーといった人工知能によって、わたしたちの角は丸く削られていく。それらに理解してもらうために方言や豊かな言語表現を使わなくなり、個性が消え、面白味がなくなる。私たちに望み通りのロボットを作る力があるのと同じように、これからは彼らのほうも私たちを思い通りに変えていくだろう。
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香港のハンソン・ロボティクスのソフィアは50種類もの表情を持つロボットで、サウジアラビア王国の完全な権利を持つ市民となった初のヒューマノイドだ。
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一部の環境保護主義者たちは、工業型畜産は地球の温室効果ガス排出量の50%以上を排出していることになると主張する。
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サラダやその他の野菜から発生する大腸菌やノロウイルスの原因は、ほとんどが家畜の糞便で汚染された灌漑水だ。それが付近の給水源に流れ込んで藻が大発生し、ほかの水生動物を窒息させてしまう(富栄養化)私たちは肉を食べ、魚を殺しているのだ。
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(培養肉を作るために)薬学や医学の研究者はウシ胎児血清(FBS)を好むがこれは牛の胎児から作られる。血清は血液から血球や血小板といった凝固成分を取り除いたもので、細胞の増殖を促す栄養、ホルモン、成長因子を含んでいる。食肉処理場で母牛の子宮から摘出された胎児は、生きたまま心臓に針を刺され、死ぬまでの5分ほどの間に心臓から血液が抜き取られる。そうやって得られた血液が精製されFBSになる。FBSほどヴィーガンの理念からほど遠い物質もないだろう。
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私たちが奪う魚の命の数は、肉の比では無いのだ。結局のところ余裕のある水産資源は7%で、そのほとんどは採算が取れないほど陸地から遠い海域にあるか、政治紛争の激しい海域にある。
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「ヴィーガン・コミュニティは、自分達をまるで客観視できないどこまでも自己中心的な人間の集まりです。ものすごく白人的で、ものすごく裕福で、ものすごく恵まれているうえに、自分達の行動の独善性に対してまったく自覚がない。そういう連中と付き合うのはごめんだと思いました」
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IVN(試験管培養肉)は、肉への欲求はいまもこれからもずっと変わらない人間の本質だという根拠のない話を繰り返し、むしろ肉の需要をいっそう刺激している。IVNよりも肉の消費を減らしたほうがはるかに容易に問題を解決できて、有効性の観点からみると培養肉はエンジニアリングの限界を超えている。
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植物を原料とした動物製品の模造品は、ものすごい数の化学物質が含まれた超加工食品だ。ジャスト・エッグの成分表には分離された副産物や増粘剤や油脂や抽出物や香料のほか、ピロリン酸4ナトリウム、トランスグルタミナーゼ、クエン酸カリウムといった添加物がずらりと並び、ビヨンドバーガーはえんどう豆のタンパク質とココナッツオイルで作られているとのふれこみだが、メチルセルロース、マルトデキストリン、植物性グリセリン、アラビアガム、コハク酸が含まれている。植物を動物製品に似たものにするには、かなりの細工が必要になるわけだ。
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彼女たちは本音をはっきり言いますよ。「妊娠したら役を失ってしまいます」「私は働いています。だから時間が無いんです」「私はモデルで女優もしています。見た目がウリなので、体が醜くなるのは嫌なんです」とね。
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あなたはもしかすると「代理母が自分の産んだ赤ちゃんに愛情を感じ、引き渡しを拒むのが大きな問題なのではないか」と思ったかもしれないが、実際は依頼者のほうの気が変わり、すでに代理母のお腹に宿った子供を引き取らないと言い出す可能性のほうがずっと大きい。
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親になりたいと心から願う人の夢を叶えるためにほかの人の子供を産むのだと主張する充足した代理母が世界中に何人いようと、代理出産とは本質的に女性を入れ物、つなり培養装置をして利用し、体に宿した赤ちゃんに対する生後の全ての権利を放棄するよう求めることだ。搾取されている自覚が本人にあるかないかは別として、それは女性の生殖能力の搾取の上に成り立っている。
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明らかにまだ生まれる状態になかった胎児が、胎盤からも母親からも完全に離れ、液体が入った袋の中で呼吸し、羊水を飲み、泳ぎ、夢見ている姿を目にすると、なんという奇跡だろうと衝撃を受けずにはいられません。神々しい光景です。
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科学者は人口受精したヒトの胚を14日間しか培養できない。なぜなら、15日目には原始線条が現れ、生物学的にヒトとなるからだ。
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ノルウェーのように女性が赤ちゃんを生みやすい国でも出生率は下がる。ノルウェーでは誰もが大学に進み、ほとんどの人が修士号も取得する。つまるところ、女性の教育機会が大きいと選択肢が増え出産は多くの可能性の選択肢の一つになる。
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体にある本物の子宮を使うこと自体、社会的地位の低さ、貧困、乱れた生活、無計画な妊娠と同義語になり、危険な母親である証になるのかもしれない。「自然な」出産自体が無責任で無謀な選択とみなされる可能性もあるのだ。
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想像しうるほぼ全ての自殺方法は、苦痛を伴うか、確実性に劣るか、見苦しい姿をさらすか、時間がかかるか、罪のない傍観者を危険にさらすかのいずれかである。人を眠るように逝かせるという幻想を現実のものにできそうな手段は、ネンブタールくらいしかない。
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世界では死ぬ権利の法制化が進んでいる。スイスでは1942年以降自殺幇助が合法化されており、オランダでは2001年、ベルギーでは2002年、ルクセンブルクでは2008年に安楽死が合法化された。
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次の画面に進み「はい」をクリックすると、自分が死ぬことを理解していますか?
「はい」をクリックすると別の画面に切り替わる。
15秒後に致死量の薬物が注射されます。続ける場合は「はい」をクリックして下さい。
「はい」をクリックすると15秒後にリズミカルで陽気な音楽が流れる。画面は暗転してたった一言だけ浮かび上がる。
「終了」
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フィリップは自分の発明を誰が利用するのかを完全にコントロールできないことなど分かっている。それを生み出したのが自分だと誰もが知ってさえいれば、彼にとって後はどうでもいいことなのだ。
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自殺は連鎖する。とくに若者が亡くなったり、国際的に報道されるケースではなおのことその傾向は強まる。アメリカではマリリン・モンローの死後1ヶ月で自殺者の数が12%増え、ロビン・ウィリアムズの自殺後5ヶ月間で自殺率は10%上昇した。新しい装置がなくとも、自殺には引力がある。
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死は生きるのに飽きたときに積極的に選ぶもの、自分の死を自らコントロールしたいと切望する人が心から求めているのは尊厳と安心であって、死そのものではないのだから。
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以上引用です
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感想は・・・読むしかない!
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大きく四章に分かれていて、それぞれ「セックス」「食」「生殖」、そして「死」の未来について書かれている。
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ほんの一昔前まではSFの世界だったような絵空事が、すぐ目の前の現実にまで迫ってきているようだ。
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つまるところ、いつでも理想のセックスができて、動物を殺さずに肉を食べれて、出産しなくても子供が持て、完璧な死を遂げられる未来だ。
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ヒャッハー!・・
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・・・
・・・
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とはうまくいかないようだ(笑)
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スマホにも似ていると思う。手の平の便利さと引き換えに、ある程度の記憶力、忍耐力、集中力を明け渡したのは間違いない。
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テクノロジーが発展すればするほど、人間が差し出すものもますます増えるのかなと。
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影響力が桁違いの生死、生殖に関わるようなブレイクスルーを適切に運用できなければ一転ディストピアになるだろうね。
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特に印象的だったのは「生殖の未来」だった。
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フェーズはすでに代理母から、人工子宮になっているようだ。
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数多のチューブで繋がれたバイオバッグの中で、誰もが体外発生できるようになれば虐待や薬物依存の母親から幼児を守ることができる。さらに病気やLGBTQの人も子供を持てるようになるだろう。
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そして女性の体内で胎児を育てなくてもよいということは、中絶しながら赤ちゃんの命を救えるということでもあるよね。
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その一方で、著者はこうも書いている。
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体外発生は妊娠、出産がもたらす不安や痛み、リスクから女性を解放する。けれども体外発生による平等は男性が主導権のない立場に置かれてきた唯一の領域において、女性が自分たちにだけ与えられていた力を手放すことから生じる。そういう意味では、人工子宮のメリットは女性よりも、男性にとってのほうが何倍も多いと言っていい。
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「人間の仕事は機械に取って代わられる」とはよく言われるけれど、セックスロボットと人工子宮の完成が意味するところは、とどのつまり「女性の代用品の完成」だ。
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これがフェミニストが言う「解放と平等」に繋がるのかは分からない。ただ、非可逆的なトレードオフになる可能性は高そうだ。
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テクノロジーが倫理に取って代わろうとすると、人間が努力して成長する機会も奪われるのかもしれないね。
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ちなみに世界最高齢出産記録は66歳で体外受精で出産したスペイン人の女性らしい。
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最後の章「死の未来」には、ジャック・ケヴォーキアン氏が取り上げられている。
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以前見た映画「死を処方する男 ジャック・ケヴォーキアンの真実」で描かれていたドクターキリコで、自殺界のイーロン・マスクでもある。
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人工中絶と同じく「死ぬ権利」をめぐってはプロとアンチが激しく火花を散らしている。この本に書いてある団体のサイトを見てみた。
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安楽死賛成団体
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安楽死反対団体
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最新の安楽死マシン Sarco
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個人的には安楽死に賛成だ。興味のある方は読んでみて欲しい。
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*自殺や安楽死を推奨しているわけではありません。
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ちなみに著者は一貫してこれらの技術に反対している。その視点がユニークで鋭く、お金と時間をかけても読む価値があると思う。
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最後にもう一つ
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人は相手を尊重する心を失い、多国籍企業が食肉産業を完全に支配し、女性はお払い箱になり、弱い人たちが誰の監視も受けずに死の装置をダウンロードできるようになる。そうなることを、ただ黙認することは人間の本質というものは変えることも努力で克服することもできないものだという運命論的な考えを受け入れることに通じるだろう。
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他にも内容が盛り沢山なので、これ以上はぜひ読んでみて下さい(笑)
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大変面白かったです。
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