「最悪の予感 パンデミックとの戦い」を読み終えた。
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マイケル・ルイス氏の新作だ。
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著者の本は「マネーボール」「世紀の空売り」「フラッシュボーイズ」と読んでいる。マイケル・ルイスじゃなければこのタイトルで買っていない、ファンです(笑)
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「戦いの9割は最初の数日間にかかっているんです。でも、始まりは決まって静かです。こちらとしては静かに矢継ぎ早の決断を下すわけですが、第三者からは何を大騒ぎをしているのかと白い目で見られます」
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[他家受粉] 誰と誰がセックスしたか、どんなセックスだったかと言いたくないときに使う言葉。
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ミスを防ぐ最良の方法は、防御機能を何重にも持つシステムを設計することである。
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人は、押し付けられたものは学ばない。みずからの欲求や必要性に迫られ、自分の意志で探し当てたものを習得する。
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累乗の急激な増え方に面食らうのと同じように、人間の思考には盲点があり感染が爆発的に広がる前に介入することが重要だと気付かない。
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判断がたまたまうまくいったからといって、それが正しい判断だったとは限らない。皮肉な見方をすれば、判断のプロセスに的外れな自信を深める結果になりうまくいったのはむしろ災いかもしれない。
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「ちょうど、運転中に携帯電話を眺めていてふらふらと車道から外れたものの何にもぶつからずに済んだという状況に似ています」
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企業は金になるものにしか興味がない。学者は論文になるものには関心を寄せるが、往々にして論文が出来上がると関心を失う。
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特に閉口したのは、自分の効率の悪さを棚に上げて、より多くの資金が必要であるかのように見せかける者がいる一方、少ない資金でやりくりする才能がある者が、結果的にますます少ない資金しか与えられないことだった。
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現実問題として、ひと握りの割合の感染者が、ウイルスの蔓延に多大な貢献をしているのだ。ほとんどの患者は誰にも移さないのに、ごく一部の人が20人に感染させる(スーパースプレッダー)
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ウイルスから得られる唯一の明確なシグナルは、死亡者数だ。最初は、一人だけの死亡。それほど大問題ではないように思える。しかし、ウイルスに感染した0.5%しか死なないと考えると、一人死ぬときその陰には199人の感染者がいて市中を徘徊していることになる。
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クラスター感染が発生した場合、ゲノム配列を解析すれば誰が感染源になり、どう広がったかが明らかになる。大勢いる部屋で誰がおならをしたかばれてしまうわけだ。
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(CDCとの交渉は)無駄に手間が多かった。電話で話し合うためには事前にメールで連絡する必要があり、そのメールがCDC内で20人に回覧されるのだった。よそからのデータは吸い込むが、みずからのデータはめったに公表しない。
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ツイッターやケーブルテレビで説を振りかざす、自称「疫学者」を見かけるとみずからは畑を耕した経験も牛の乳を搾った経験もない農場経営者にそっくりだと思う。
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以上引用です
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感想は・・・面白い!
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日本でもパンデミックを予想して、事前に対策を講じようとしていた優秀な人がいたに違いない。でも現実は大きな組織や権力に阻まれてなかなか実行に移せなかったんだろうと思ってしまう。
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アメリカだけじゃなくどこの国も同じだなと。
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さらに引用すると
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「CDCは、データに基づいた対応をすると言い続けながらデータをろくに入手しようとすらしていませんでした」
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「CDCは自分自身に都合のいい嘘を流す人に似ていると思う」
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「CDCの最大の欺瞞は、封じ込めは不可能だと世界中に信じこませようとしたことです」
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ホワイトハウスで受け取るものは、大体全部たわごとですから。
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マイク・ペンス副大統領のオフィスからは「今後、保健福祉省の誰ひとり、国民を不安にさせるような発言をしてはならない」という命令が出された。
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まさにブルシット・ジョブのフランキーとダクトテーパーだ。
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取り巻き(フランキー)の仕事とは、誰かを偉そうに見せたり、誰かに偉そうな気分を味わわせるというただそれだけのために存在している仕事のことである。
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尻ぬぐい(ダクトテーパー)とは、屋根に雨漏りを発見したのに屋根の葺替業者を雇うのは費用がかかるからと、かわりに穴の下にバケツを置いて定期的に水を捨てに行くフルタイムの従業員を雇っているようなものなのだ。
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そんな日和見主義、ご都合主義の中で孤軍奮闘していた人達の物語だ。政府がパンデミックに対して本当に危機感を持って対処しているのは、強いて言うならニュージーランドくらいじゃないかな。
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この辺は読んでいて「サイロ・エフェクト」を思い出した。組織がどういうふうに排他的になってタコ壺化していくかよく分かる。
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組織は一般的に、影響力が大きくなればなるほど、権威が増せば増すほど排他的で内向きになっていくらしい。
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不等式で表すとこんな感じだろうか
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既得権益、拝金主義 >>> 超えられない壁 > 人命
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歴史に「もしも」は無いけれど、もしあったら世界は一変していたかもしれないね。
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一番好きだったのは第11章の「偽りの花壇」だった。チャリティーもなかなかの人だと思うわ(笑)
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ちなみに、そのチャリティー・ディーンさんは現在 Public health company という会社を起業している。
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官に嫌気がさして民に移ったということだろうね。
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とても読み応えがありました。
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