サンショウウオの四十九日

小説

「サンショウウオの四十九日」を読み終えた。
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著者は朝比奈秋さんで第171回芥川賞受賞作。本屋でぶらり「バリ山行」と一緒に購入。この人の本は初めてだった。
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父は血管から直接酸素と栄養を得ていた。伯父にとって父は紛れもなく内臓の一つで、父にとって伯父は世界そのものだった。自分が病んでいても父を気に掛ける伯父の気質も、何が起こっても周りが助けてくれるもんなんだといった父の気質もきっとここからきている。
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体のある部分から半分の数の染色体が、ある部分からは二倍以上の染色体が検出されたりした。内臓にも異常があった。左脳と右脳の間に小さな脳があり、腸は東名高速道路のように途中で分岐し、直腸辺りで再び合流していた。膵臓は重なるようになって二つあって、子宮は普通より極端に大きく、中に仕切りのような肉壁があって二部屋に分かれていた。そういった歪な内臓が人一倍分厚い胴体と頭蓋骨に収まっていた。左右の腕の可動域の違いも生まれた時かららしく、今では長さと太さまで違っている。
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大学の飲み会の帰り、酔っぱらった勢いでしたキスはわたしには幸せな記憶になって、杏にはトラウマになった。しばらくして二つの記憶は混じって、今では思い出すとマーブル模様の気持ちになる。二人が同じ人を好きなったことは今まで一度もない。性行為も共有の膣を使うのだから、どちらかがレイプされることになるので永遠にできない。子供が産めない体だとわかってからは興味もなくなってしまった。
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雷に打たれる確率は約100万分の1、一つの卵子を共有する一卵性双生児が生まれるのは300の出生につき1組。つまり確率0.3パーセント。結合双生児になると20万出生につき1組で、腰部や胸部の結合がほとんど。頭部結合となると確率が一段と低くなり約250万分の1。頭部も胸部も腰部も結合した私たちはさらに低確率になる。双子が病気ではないように、結合双生児も病気のようには思えない。生まれながら二人の距離がほんの少し近すぎただけだ。そもそも父と伯父の関係もそうだ。胎児内胎児だって50万出生に1組。人口が何十億人もいることを考えれば、たびたび結合双生児も胎児内胎児も生まれてくる。たいしたことではない。
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骨を橋渡ししながら、自分たちが死んだ時を想像してみた。炉室から台車が出されると台の上に残っているのは白い骨だけ。頭蓋骨に詰まっていた三個の脳も、二個ある膵臓も二倍の大きさの子宮も何もない。あるのはたった一つの骨格。白く太い背骨、鳥かごのように丸い肋骨、ドームみたいな頭蓋骨、少しずれた顎骨。二人の人生を背負っていたわけだから骨自体が大柄にもなる。もともと溶け合った一つの骨格。
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以上引用です
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どういうこと?
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読んでいた手が30ページほどで一度止まる。何度読み返しても意味が分からない。それでも気にせず読み進めると段々と靄が晴れてくる。
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シャムの双生児を初めて知ったのは、小学生の頃に読んだ「ブラックジャック」だったと思う。当時の自分には衝撃的で、怖くて一人でトイレに行けなくなったのを覚えている。今思えば軽いトラウマだ。
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その後忘れかけたころ、テレビでベトナム戦争の被害者であるベトちゃんドクちゃんを見て、あれはノンフィクションだったんだと驚愕した。
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つまるところ、結合双生児や胎児内胎児は現実にあるんだと。
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もし杏と瞬のように、完全に「ふたりで一人の肉体を共有することができたら」どうだろう?
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一人になりたくてしょうがないかも(笑)
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心理と感覚は共有しつつも、意識はそれぞれ持っている世界線だ。
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そんな「ひとりでふたり」のいいところは、寂しくない、死ぬときも一人じゃない、絶対に孤独死しないくらいだろうか。でも片方が消えたら消えたで心細くて死にたくなるに違いない。
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伯父の勝彦が亡くなった際に父親が生きているのを見てほっとしたのは、自らに置き換えて安堵したんだろう。
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遺伝と平等 人生の成り行きは変えられる
「遺伝と平等 人生の成り行きは変えられる」を読み終えた。 . . 著者はテキサス大学の心理学教授で、テキサス双子プロジェクトの共同主催者だそうだ。 . この界隈で出回っている本の中で一番面白そうだったので購入。 . . ■ . . エンドウという植物の特徴(草丈が高いか低いか、マメはつるりとしているかシワが寄っているか、マメの色は緑色か黄色か)はたったひとつの...

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双子は「生まれ」が同じなので「育ち」に関する社会実験に積極的に加わって特定の遺伝子の発見に大きく貢献している(利用されている)イメージが強い。
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あとね、もし望めば彼女らは体外受精や代理母の選択肢もあったのかな。命を繋ぎ次世代に伝えることも出来たのかもしれないね。
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それでも親からすれば我が子が元気で生きているだけで幸せだと思うよ。
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著者は医者でもあり、医学的な説明がとても繊細でリアルだった。それで芥川賞も受賞するんだからすごいよね。手塚先生みたいだ。
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頭の中一杯に妄想を膨らませながら読めると思います。
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面白かったです。

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