「老害の人」を読み終えた。
.
.
内館牧子さんの新著だ。すごく有名な方だけれど、実はこの本が初めてだった。
.
.
■
.
.
困ったことに「老害の人」の多くは、自分は「余人をもって代え難い人間だ」とまだ思っている。実は若い世代の人たちであっても余人なんぞいくらでもいる。犬も歩けば棒に当たる。それが社会というものだ。
.
.
老害の人というのは、逼迫したコロナ問題からでも、政治問題の話からでも、ものの見事に自分の話に持って行く。匠の技だ。
.
.
まずは断れば、仲間たちは「どこか悪いの?」とか「どうしたの?」とか心配する。そうやってかまってもらうと自尊心が満たされるらしい。
.
.
孫自慢は一気に他のメンバーにも広がる。それはもう山火事の勢いだ。乳飲み児から二十代の商社マンまで、見たこともなければ関心もない孫の話をバァバたちはマスク越しに叫び合う。
.
.
よく若い人は「やらずに後悔するより、やって後悔したほうがいい」と言う。恥ずかしくて赤面するほどのきれいごとだ。やって大失敗して後悔して家族は崩壊。友人たちと顔を合わせることも避けて生きていくのか。後悔したくないからと、何にでも挑戦するのは頭が悪いだけだ。
.
.
思えば老害とされる人は、口数が多い。後先を考えず、言いたいことを言う。そんな自分に酔い際限なくいくらでも言う。まだまだ先のある人間は、つい相手の立場を考えたり言葉を選んだりする。これからも生きていく以上ことを荒立てたくない。だが老人はどうせ近々お迎えが来るのだ。強気だ。
.
.
サキの名刺の裏には、これ以上は印刷不能というほどぎっしりと肩書きが並んでいた。それは「東日本大学教育学部同窓会 世話人」から「三丁目商店会外部アドバイザー」「子供会輪投げ大会相談役」まで、ほとんど名ばかりだろうという役職で埋めつくされていた。
.
.
老人と関わる日本中の人、その多くが一度は老人にきつく当たっているのではないか。そして老人の方が責められることをしていても責めた側が後悔する。
.
.
年を取れば取るほどに不幸になる。そんなことがあっていいはずはない。だが、社会はそうなのだ。若い人は現実にそれを見ているのだから自分の行く末に重ねるべきだ。だが、重ねない。自分が老人になることなど考えられないからだ。
.
.
若い者が口先だけで「シニアの再活用」だのと謳い、「挑戦はいくつからでも」だのとうまいことを言う。そして結局は老人枠に隔離している。
.
.
「お前ら、個性って言葉大好きだろ。算数ができねえ子供も、かけっこが遅い子供も、人見知りなのも落ち着かないのもみんな欠点じゃなくて個性だってすぐ言うだろ。他人と同じである必要はない、何もかも個性なんだからって、お前ら言っているじゃねえか。それと同じだよ。自慢も説教も繰り返しも、上から目線も足が弱るのも頭が弱るのもみんな個性だ。覚えとけ、バカ娘」
.
.
「こういうこと(源平盛衰記)を知っていると、ああ、昔の人も「人間は必ず衰えていくのだ」と思っていたのねと、虚しかったのねと分かる。だから、栄える者も必ず滅びるのが世の姿だって歌詞にも書いているわけよ。人生なんて、何もかも夢のようなものよ。いつの世でも、人はみんなその切なさを味わってきたの。それを知るだけで、そこらの無知なジジババにはならない。そいつらは昔話をして、自慢話をして、孫自慢をして死ぬまで時間をつぶして墓に入りゃいいのよ」
.
.
施設は本人も家族も楽にしてくれる。食事から風呂、趣味の会まで至れり尽くせりだろう。だが、もうしばらく面倒くさくて、腹が立ったり、嘆いたり、喜んだりする生活がしたいのだ。
.
.
以上引用です
.
.
■
.
.
感想は・・・もーー笑い転げた(笑)
.
終始つっこみながら読んでいた。
.
裏表紙のプロフィールを見ると、著者の内館牧子さんは1948年生まれなので御年74才くらいだろうか。
.
「この年で」と言うと大変失礼だけれども、これだけ精力的に面白い小説を何冊も世に送り出せるところがすごいよね。きっと充実された生活を送られているんだろうなーと。
.
.
母親の顔を見たくて実家に帰ることがある。
.
昔話もよくするし、一緒に出掛けても歩幅は小さく歩くスピードは遅い。後ろから見る背中も随分と小くなってしまった。
.
買い物の会計も時間がかかるし、支払いは札だけで端数の小銭を出さないのでお釣りばかりが貯まる。
.
誰もが年を取る、それはもう確実に。
.
アルバイト先のお客さんでも年配の方がいる。中には不躾なチンピラのような輩もいて嫌な気分になったりイライラすることもある。でも、そういうときふと母親と重ね合わせてしまうんだよね。
.
.
あと思うのは、中年の人でも「中害」はいるし、若者の中にも「若害」がいるだろう。つまるところ、年齢ではなく人間の問題だと。
.
ただ「老害」は目上なだけに誰も注意しないし、されにくい。そういう部分はあるかもね。
.
■
.
ちなみに一番笑った件は
.
.
彼女たちは「自慢話?」と口の前で手をグーパーして問うた。被害者は顔をしかめてグーパーして返した。
.
.
もう大笑い(笑)今書きながらも笑える。
.
一方で、若者が同じ内容を書いたとしてこれだけ心から笑えるだろうかとも考えてしまう。高齢者が上梓するからこそ許されるというか、笑わせてもらえる面もあるかもしれないね。
.
.
きっと「雀躍堂」は「任天堂」もじったんだろう。装丁のイラストがとてもほんわかと好きだった、いいよねー。最後の大団円もよかったです。
.
・・・
・・・
・・・
.
「我が生涯に一片の悔いなし!」
.
とラオウのようにくたばりたいものだ。
.
興味のある方はどうぞー
.
.
コメント