「DTOPIA デートピア」を読み終えた。
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第172回芥川賞受賞作。著者はこれまでも芥川賞候補には選出されていたそうだ。この人の本は初めてだった。
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男たちが、そのときのことをこう語る。『男だらけだと思ったら』『一気に楽園だ』『まるでジェットコースター』『こんなデート番組は他にない』彼らが有頂天になればなるほど、いずれ消耗品として捨てられていく未来を私たち視聴者は期待する。
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10人の男を見分けるのはある程度の時間を要した。だから、視聴者のほとんどはまず、順番に追って観ることを放棄する。だいたいみんな「本編」の最終エピソードを確認して、そこからカウントダウンするように各エピソードを消化していく。番組の概要は噂で知っているから、冒頭を観る必要は無いし、今後どうなるかも分からない挑戦者に時間や熱意をかけるより、結果残したやつを応援していくほうが確実だ。
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もう誰も本編を観ない。しんどくてめんどうな時間を一方通行に、まともな速度で過ごしたい人なんて私たち観客のなかにはほとんど残っていない。コンセプトだけでいいのだ。とにかく、バカな白人を生態観察みたいに記録して、それで何かを把握した気にさせれば、今まで通り綺麗な白人社会を作ることができる。この仕組みに、みんなが薄々気付きはじめていた。
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こうした過去発掘はMrパリの熱心なファンによって行われていた。推しの卒業アルバムや幼少期の美談を蒐集して、まともなファンから「時間差の小児性愛」って忌み嫌われるタイプの人々によって、すでに11人の過去は発掘が進んでいた。
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「暇な手には悪魔が宿る」っていうのは、「手を休めると失敗する」っていう意味じゃなくて「人間の手がそもそも悪魔の仕事場」ってことだ。何もしていないつもりのときこそ悪魔の片棒を担いでいる。
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スタジオ、という通称しか持っていない小さな部屋で、ダイモンは少人数のスタッフたちと拷問と尋問を代行していた。三つ目の国。物々交換の国よりずっと狭い、拷問の国。そこでおまえはまた、暴力から暴を免除される。
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国を目指すこと。国の定義する幸福を目指し、その一員として無事に回収されること。
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新しいターゲットに選ばれたのは、彼女の態度から滲み出る、ミックスの子を産んだ純血な親特有のドヤりみたいなものが鼻についたからだった。夫が黒人であること、その夫に逃げられたこと、残された子供もまた黒人であること。そうして彼ら黒人に降りかかる不幸を、日本人女性であるLuv菜が身内として引き受けざるを得ないことの、二重の悲劇性。そういう事前情報の厚みを使って、何シンガーとしての資格を得たつもりでいるのもよく分からないし、何よりその悲劇の一端として登場させられる子供を思うと、他人事とは思えないほどいたたまれない。
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ここで生まれた人間はみんな、ある二択で葛藤するんだ。ひとつは、多少の負担を受け入れながら国の一部でいる道。もうひとつは、奪われもしないし、手に入れもしないし状態に戻る道。つまり人権のない原住民に戻るか。フランス国民でいるか」
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フランスが核実験のためポリネシアに設立した太平洋実験センター、略称CEPは「デート兵」と呼ばれる特殊部隊を用意していた。任務は、いずれ核実験の被害が表面化し、本国と植民地が分断するのを避けるための鎹を仕込んでおくこと。デート兵と呼ばれる白人の青年たちは、本国の子でも、植民地の子でもない、両方の子どもを残すために、現地の女性をデートに誘い妊娠させていった。
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以上引用です
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恋愛リアリティーショーは見たことがない。
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実際は台本と演出ありきの「名ばかりリアリティー」でも、ノンフィクションかどうかは重要ではなく、視聴者が楽しめるかどうかが大事で仮想でも現実でも受け入れられる、何なら自らマッシュアップしてあげると。
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そこに人種やジェンダー、マイノリティー、格差といったドロドロしたトピックが綯い交ぜになって突き進んでいく。
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サブタイトルの『』部分に、もはや誰も真剣に聞いていない、過程はどうでもよく視聴者が望む結果を見せてくれという大衆のエゴ感が。
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玉を切り取り糊口をしのいでいた猟奇的な少年が、周囲の空気読みに事欠かない「ザ・日本人」に変貌する様は、モモのトランス性同様、ハーフの闇、アイデンティティの不安定さみたいなものを感じた。
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芥川賞らしく、ドス黒くエッジが効いている一方で、ある程度の範囲のある程度の知識がないと解釈するのは難しいと思う。生意気なことを言わせてもらうと、たくさんの要素を詰め込み過ぎた感はあったかも。
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その辺は切り捨てもやむを得ないという印象を受けた。
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感想が難しい。ぜひ読んでみて欲しいな。
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