「テスカトリポカ」を読み終えた。
.
.
著者は佐藤究(きわむ)さんという方でこの人の本は初めてだ。直木賞受賞作ということで読んでみたかった。
.
.
■
.
.
その空虚さこそ、彼女自身が望んだものだった。だが、人はみずから望んだものに傷つけられる。
.
.
コカインの密輸量は変わらない。もう一つ変わらないのは、アメリカ合衆国がその最大のマーケットであるという現実だ。
.
.
人間は危機に直面すると、生き延びるために態度を変え、あたかも成長したような行動力を見せたりもする。そしてひとたび危機を脱したと見ればあえなく過去の自分に戻っていく。
.
.
[人無遠慮、必有近憂] 人にして遠き慮り無ければ、必ず近き憂い有り(中国の故事)
.
.
富裕層はこう思っている。「心臓を買ったはいいが、あとになってわが子の体内で提供者が摂取した麻薬や酒の影響が出てくるかもしれない。売られた子供がこの2つと無縁だったとしても、スラム育ちは排気ガスをたっぷり吸い込んでいるじゃないか」と。
.
.
彼女がストライキに加わらずに「らいときっず小山台」に出勤しつづけた最大の理由は、職場の愛着ではなく子供を預かる使命感のためだった。どうせ自分にはたいしたことはできない。私はこのままでいい。このままがふさわしい。
.
.
無戸籍児童が生まれる複雑な背景はいくつもあり、こうした子供たちは自分を証明するものを何一つ持たずに生きつづける。書類上、日本国民として存在していない。
.
.
殺し屋という仕事はコロンビアのスラム街で生まれた。
.
.
犯罪グループに加わりたいと望む者は、リーダーの課すテストに合格し資質を証明しなければならない。テストにはつぎのようなものがあった。自分で育てた小鳥を握りつぶす。もしくは友だちを撃ち殺す。
.
.
どれだけ待っても提供者に出会えるとはかぎらない心臓移植の世界で、金さえ払えば確実に移植までたどり着ける。しかも闇ルートであるにもかかわらず空気の汚染されたスラム街で買われた子供の心臓ではなく、日本で健康に育てられた子供の心臓を。父親はもっと金を出しても惜しくはなかった。
.
.
人間とはまとまりのない群れだ。一人が殺されると仕返しに一人を殺し、その仕返しにまた一人を殺し、その仕返しにまた一人を殺す。ドミノ倒しさながらだ。群れのなかで暴力は伝染するのさ。
.
.
以上引用です
.
.
■
.
.
感想は・・・めちゃくちゃ面白かった。
.
もう最初の10ページくらいでぐっと引き込まれて持って行かれる。あとは夢中になって100ページほどずつ読んでいった。
.
限りなくノンフィクションに近いフィクションだろう。
.
巻末にある参考文献の数からも分かるが、物語に関する要素がとてもとても丁寧に調べられていて、マニアックな人も満足できるんじゃないかな。
.
アステカの話は、この前に読んでいた「暴力と不平等の人類史」でかなりのページを割いて説明されていたので、すんなり入っていけた。意外なところで繋がるもんだよな(笑)
.
.
実は若い頃にアメリカから陸路でメキシコに行ったことがある。
.
お土産屋さんにアステカをモチーフにした民芸品とかもあったんだろうな。当時は知識も無くて何かの模様くらいにしか思っていなかったけど。
.
あとね、読みながら今まで読んだ本や映画が蘇ってくる。
.
.
チャターラは元「ナイトクローラー」だ(笑)ダークウェブでのやり取りは「闇ウェブ」あたりを読んでおくと面白いと思います。
.
■
.
はっきりいって希望のある話では無い、むしろシルバーライニングの欠片もない。
.
読む人によっては嫌悪感しかないかもしれない。でも自分は「そこ」をとことん突き詰めているところが刺さった。
.
あ、登場人物の中ではパブロが一番好きだった。
.
とても面白かったです。
.
.
コメント