「傲慢と善良」を読み終えた。
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著者は辻村深月さんで、文庫本になっていたので購入。
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作者の本を読むのは「かがみの孤城」「ツナグ 想い人の心得」に続いてだった。
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まだこちらにそんな気がないのに「結婚」を迫る女子は、問答無用で「怖い」と思って許されるような、そんな気がしていた。
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自由気ままな恋人同士ではなく、ともに家族まで巻き込んだ社会的な関係になり、親を安心させる。あれだけ抵抗があった結婚に伴う「責任」こそが、むしろ欲しくてたまらないものに感じられるようになってくる。
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婚活で多くの相手を見続けた結果、心が麻痺していた。相手を「人」をしてみられなくなっていく。条件のラベルをつけたリストの中から、設定や背景だけを抽出して無遠慮に品定めするような目で相手を見ていることに自分で気づくと、息苦しくなった。
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真美と出会う前の架に自分の物語や過去があったように、架と出会う前の真美にも同じく彼女の物語と過去があったはずだ。その過去を甘く見ていた。
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「婚活でうまくいかない時、自分を傷つけない理由を用意しておくのは大事なことなんですよ。自分が個性的で中身がありすぎるから引かれてしまったとか、資産家であるがゆえに、家の苦労が多そうだと敬遠されたとか、あるいは自分が女性なのに高学歴だから男性の側が気後れしてしまった、とか」
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「ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、皆さん、ご自分につけていらっしゃる値段を相当お高いですよ。ピンとくる、こないの感覚は相手を鏡のようにして見る、皆さんご自身の自己評価額なんです」
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この人たちは --- 世界が完結しているのだ。自分の目に見える範囲の情報がすべてで、その情報同士をつなぎあわせることには一生懸命だけど、そこの外に別の価値観や世界があることには気づかないし興味もない。
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大らかな鈍感さを持って、深い考え無しに人と接することができるのはある種の才能のようなものだ。その才能のある金居のような人はきっと家族に向いている。この人に幸せそうな家族があることが、架にはよく分かる。
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「あの子は自殺なんかしないよ。自分のこと、大好きだもん。控えめ、目立つのが苦手 --- あとはなんだっけ?孤独な恋が似合うとか書いてたよね。孤独な恋ってなんだって話だけど。マイナスのことを書く時でさえ、自分のこと「似合う」って言葉で肯定するような、そういう子だよ。自己評価は低いくせに、自己愛が半端ない。諦めてるから何も言わないでって、ずっといろんなことから逃げてきたんだと思う」
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結婚してるくせに。架くんの人生の、なんでもないくせに。あなたが架くんと結婚するわけじゃないくせに、この人は架くんが好きなのだ。自分の好きな架くんが、自分の好きじゃない女と結婚するのが許せないのだ。
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県庁職員で、真面目で、いい人。この人を恋愛対象に思えたらどんなにいいだろう。だけど、私にはそう見えない。紹介された時点からどうしても相手を対象外に見てしまって、そこから先に進めない。この人をいいと思えるひとがいたら、嫌みでなく本当に羨ましく思う。だけど、思えない。婚活や出会いの場は、いつもそう思う事の繰り返しだった。
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たった、ひとつ分かることは --- 私がそんなふうに、見下すように「相手として見られない」と思ったその誰もが、私なんかと結婚しなくておそらく正解だったということだ。彼らにちゃんと向き合えた人と結婚できて、きっと幸せだろうということだ。
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私のことも、私の選んだ人のことも信じていない一方で、この人は、自分と、自分の家のことだけは信じすぎる。
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他の臨時職員の女の子たちと相手の顔を見に行った。おとなしそうな、頭髪の薄い、ちょっと老けた感じの人で、あんなおじさんがメグちゃんを好きなんて図々しいよねってみんなで話した。
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以上引用です
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感想は・・・読むしかない。
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恋愛や婚活、結婚に悩んだことがある人は何かしら刺さるところがあるんじゃないかな。読みふけってしまった。
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今回だけは、結婚してもいないのに偉そうなことを言わしてもらう(笑)
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ふと振り返って見ると、自分も人並に恋愛をして、何度か結婚するタイミングもあったと思う。それでいてまだ独身なのは傲慢なところもあり善良なところもあったんだろう。
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実はね、この小説のヒロインの真美は昔の彼女とすごく重なるところがあって年甲斐もなく胸が痛くなった。いわゆる箱入り娘だった。
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自分が手に入れられなかったものは、他人にも手に入れさせない美奈子。
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手に入れたものは決して手放さない陽子。
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手に入れたものが何か分からない真美。
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そして、何でも手に入れられるからこそ、何も手に入れられない架。
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つまるところ、人間の業だ。
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「人生は選択の連続だ」と何かの本に書いてあったけれど、その通りだと思う。振り返れば、恋愛に限らず小さな if が大きな life となっていく。
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印象的だったシーンはたくさんあった。
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その中でも刺さったシーンは、架と金居がファミレスで話していて、金居の奥さんが金居のことを迎えにくる件だ。奥さんが架を無言で見つめるその心情たるや、考えると「うわーー」って叫びたくなる。
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あとね「はじめてなの」に対する答えは「大好きだよ」だと思う(笑)真美は時折「コンビニ人間」の主人公のようにも見えたかな。
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文庫版は巻末に解説があって、作家の朝井リョウさんが書いている。実は解説が彼だから読んでみたいなーとも思っていた。こちらもとても素敵な文章でした。
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最後にその朝井リョウさんの「死にがいを求めて生きているの」から
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「一つ目は、生きがいがあって、それが、家族や仕事、つまり自分以外の他者や社会に向いている人。他者貢献、これが一番生きやすい。家族や大切な人がいて、仕事が好きで、生きていても誰からも何も言われない、責められない。自分が生きる意味って何だろうとか、そういうことを考えなくたって毎日が自動的に過ぎていく。最高だよ。」
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「二つ目は、生きがいはあるけど、それが他者や社会には向いていない人。仕事が好きじゃなくても、家族や大切な人がいなくても、それでも趣味がある、好きなことがある、やりたいことがある、自己実現人間。このパターンだと、こんなふうに生きていていいのかなって思うときが、たまにある。だけど、自分のためにやってたことが、結果的に他者や社会をよくすることに繋がるケースもある。自分のために絵を描くことが好きだった人が漫画家になって読者を楽しませる、とかな」
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「三つ目は、生きがいがない人。他者貢献でも自己実現でもなく、自分自身のための生命維持装置としてのみ、存在する人」
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ナンバーワンよりオンリーワンは素晴らしい考え方だけれど、それはつまり、これまでは見知らぬ誰かが行ってくれた順位付けを、自分自身で行うということでもある。見知らぬ誰かに「お前は劣っている」と決めつけられる苦痛の代わりに、自ら自分自身に「あの人より劣っている」と言い聞かせる哀しみが続くという意味でもある。
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薄っぺらいハウツー本を読んで、終わりの無いフィードに偽りのプロフィールを盛るくらいなら、騙されたと思って数百円と数時間をこの小説に充てて欲しい。そう思える本でした。
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読むしかない!
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