「シンクロニシティ 科学と非科学の間に」を読み終えた。
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タイトルに持っていかれて購入(笑)著者はフィラデルフィアの科学大学の物理学教授だそうだ。
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ケプラーが結論を導いた過程は、科学的手法の初期の適用例といえるだろう。球体と多面体が交互に重なる数秘技術的な幻想を自らの手で放棄したのである。それは自然界を読み解く人間の直感の頼りなさを如実に表している。彼の清らかな心が生み出した自然とのつながりは、真理ではなく美しい幻想に過ぎなかった。だが幸いなことにケプラーは柔軟な視点で自らの考えを改め自然の真の姿に到達できたのである。
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ガリレオは、地球が動いていることを証明しようとして異端審問所に逮捕された。そしてその数十年前の1596年、同じく地球が動くと著書に記したジョルダーノ・ブルーノが厳しく非難されている。そしてブルーノは最終的に火炙りの刑となった。惑星の周回する太陽のような天体が宇宙には無数にあると唱えたその思想こそが異端だった。審問所の規則とカトリック教会の教会法に照らして犯罪だったのである。著書でその思想を表したブルーノは尋問を受けたが、地球が動くとの意見を変えなかった。対照的にガリレオは審問所の裁判でその考えを否定した --- 嘘をついたのである。
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山にトンネルを作るのであれば、作業員や掘削機が少しずつ掘り進めるだろう。だが量子の世界では、状態は一瞬のうちに(もしくは測定できないほど速く)変化する。あるエネルギー準位から別のエネルギー準位への電子の遷移(レーザーの原理)がその典例だ。中間の状態が存在しないのである。核融合反応で見せる陽子のトンネル効果(量子がエネルギー障壁を一定の確率で突き抜ける現象)についても同様だ。
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対称性と保存則の両者は切っても切り離せない関係であることが分かっている。対称性が存在すれば、必ず保存則が成立するのだ。
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物理学も同じだ。理論に欠陥が見つかれば、全体を棄却するか、もしくは部分的に補正して理論を生かすかのどちらかである。理論の提唱者は往々にして、自らの理論に欠陥があったとしても認めないものだ。認めたとしても思い入れが強いため解決策を客観的に導くことが難しい。
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超電導と極めて近い現象に超流動という状態がある。超低温下で起こり全く粘性のない状態を表す。つまり超流体は完全な流体との意味だ。ヘリウム4やその稀な同位体であるヘリウム3を超低温下で液化すると超流体となる。超流体を回転させると量子渦が発生するが粘性がないため、量子渦はいつまでもその運動を続ける。
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たしかに、均一的な美しさは人間を魅了するかもしれない。だが、宇宙の現在の姿があるのは対称性の破れによる不均一性のおかげなのだ。もし、完全なる対称性がそのまま保たれていればこの世に生命は存在し得なかっただろう。相互作用が複数に分かれることも、物質が反物質に対して優勢になることもなかった。私たちが今こうして生きているのは均一性が崩れたからこそなのである。
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量子コンピュータは、従来のコンピュータが採用する0と1からなるビットではなく、量子系における同一状態(量子ビットとして知られる単位)に基づいて情報を格納し処理する。量子ビットは、2つの状態が重なり合った量子情報の最小単位である。観測されるまで2つの可能性(たとえばアップとダウン)を内包する重ね合わせの状態だ。そのため量子コンピュータは、複数系統の情報処理を一度に並列して行うことができる。量子コヒーレンスを維持しながら計算を進め、操作に応じて量子状態を崩壊させ、特定の問題に対して答えを示すのである。
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「量子もつれ」は多義的な未決定が重なりあったまま同時存在している状態なので、これを使えばいちいち計算していた問題も瞬時に解くことができる。たとえば、桁数の多い数が素数かどうかを判定するには、小さい素数で順に割れるかどうかを逐次的に調べていかねばならず、そのためには従来の計算機では膨大な計算時間を要するが、量子コンピュータを使えば同時計算によって大幅に計算時間を短縮できる。そうなれば、容易に解けなかった素数の積による暗号なども解読されることになり、暗号資産やブロックチェーンといった情報セキュリティも脅かされることになる。
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量子力学は直感に反する面を備えるが、決して厳密性に欠ける曖昧な理論ではない。それどころか、確率や相関、連続性などが奇しくも融合した枠組みによって、自然界を極めて正確に記述する理論である。医療機関で毎日使われているMRIやとてつもないスピードで浮上走行する超電導リニアモーターカーなどは量子力学の応用例だ。
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ある種の渡り鳥は脳内に量子コンパスと呼ばれる仕組みを有している。これはまだ実証に時間がかかる仮説だが、量子コンパスとは量子もつれの状態にあるスピンの対を使って、地磁気の流れを感知する仕組みだ。渡り鳥の群れは、これを使って闇夜でも嵐の夜でも方向を失うことなく、目的に向かって飛ぶことができる。
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[因果律] 原因(たとえば、物を引っ張るという行為)があって結果(物が引っ張られる現象)が生まれるように、ある時点の状態によって次の状態が決まるという考え方。
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もし、すべての科学的現象が因果律の上に成り立つのであれば、原因があって結果が生まれるという関係を満たさない現象は漏れなく否定される。しかし、量子もつれなどの量子現象は因果律の作用とは目に見えて異なる特徴を示す。再現性と予測の正確性という観点から科学的現象として定義される一方で、明らかに非因果性を伴うのだ。幼少期に培った私たちの直感を裏切るのである。したがって、量子世界を繙くためには成長と共に身に付けた常識とは異なる切り口で考えなければならない。
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特殊相対性理論の言わんとするところは、一方の物体に対する他方の物体の相対速度によって、時間と長さが変化するということである。なお「特殊」とは慣性系に限るという意味だ。つまる特殊相対性理論は、等速度で運動している物体だけを対象とする。極めて速く運動している物体(宇宙船の船内など)では、その物体より遅く運動している観測者(地球から超高性能の望遠鏡で宇宙船内の時計を見ている天文学者など)と比べて時間の進み方が遅くなる。
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特殊相対性理論から一般相対性理論へとアインシュタインを突き動かしたものとは何だったのか。その正体に迫るため、ある場面を想定してみよう。ある日、突然太陽が消えるという状況だ。その場合、太陽の光が地球に届く時間を加味すると地上の人間が太陽の消失を知るのは、実際に消えてからおよそ8分後である。ニュートンの理論に従えば、太陽が無くなると同時に各惑星をつなぎとめる重力という見えない力も消失する。そのため、一瞬にして地球と月は公転軌道から外れ、一直線に宇宙の彼方へと突き進む。その軌道の変化は、太陽の最後の光が地上に届くのを待つことなく瞬間的に発生する。つまりは超光速で起こるわけで、特殊相対性理論を支える因果論に背くことになる。裏を返せば、太陽から全く情報を得ずに、地球が軌道を変える必要性を認識することなどあり得ないのだ。
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アインシュタインにとって皮肉なことに、特殊相対性理論の中で光速を相互作用の伝わる絶対的な上限としたにもかかわらず、続いて発表した一般相対性理論によって、その前提に大きな抜け穴がもたらされる結果となった。主因は、歪曲する時空という概念である。さらに、ほどなくして量子力学が構築され、絶対視されていた鉄則に新たにひびが生じた。非因果的相関に、因果律を超越する可能性が見出されたのである。理論的には可能とされる時空間のワープに加えて、量子もつれや量子コヒーレンスなどの非局所的な量子現象も勘案すれば、未来の宇宙文明では超高速移動が実現していてもおかしくない。
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以上引用です
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序文に生物学者の福岡伸一さんの寄稿が載っている。
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この方の本も好きで、おそらく「科学と非科学の間に」というサブタイトルは福岡さんの著書である「生物と無生物の間」(とても面白いです)のオマージュなんだろう。これはぱっと見で分かりましたよ、ふふふ。
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タイトルがシンクロニシティ(synchronicity) なので「同期」に絡むお話なのかなーと思っていた。
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定義は「同時もしくは間髪入れずに、関連した出来事が期せずして起こる事象(意味のあう偶然)」を指すらしい。
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ピタゴラスから、ケプラー、アインシュタイン、量子もつれへと脈々と人類の叡智が書かれているとても壮大な内容だ。
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高校の物理でつまづいたものからすると(笑)難解なところもあったけれど、読み物としても大変興味深かった。
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その中でも既存の古典力学から量子力学への過程が驚愕だった。
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遠く離れた粒子間において切っても切れない相関が存在していて、瞬時に関係を作る。まるで何人たりとも逃れられない運命のようだ。
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つまるところ、量子の世界は別次元なんだよね。
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常識がこびりついた大人には A x B と B x A が違う結果になる世界を想像するのは難しい、いや不愉快だ(笑)
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もし光を超えるスピードが可能なら、将来的にテレポーテーションはおろかタイムマシンも絵空事ではないんだろう。
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ちなみに量子跳躍は瞬間移動なのか、それとも有限の速度での移動なのかはまだ分からないそうだ。
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あとね、パウリやアインシュタインのような歴史に名を残すような偉人でも、オカルトめいた非科学さと自らの固執からは逃れられないんだなと。
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一方で、その確固たる信念があるからこそ、とんでもない偉業を成し遂げられるんだろう。結果的に間違っていたとしても、その姿勢が純粋にかっこいいと思ったな。人間らしさが垣間見えるというか。
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再現性があって因果関係があれば、科学的である一方で、非因果的だからといって非科学的というわけではないということだ。
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最後に印象的だったところを2つ
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量子もつれに奇怪な面など一切ない。解釈を試みる哲学者が煙幕を張っているだけだ。フリーマン・ダイソン
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現代物理学において、経験主義の尊重と抽象的理論の考察のバランスを取ることは間違いなく至難の技だと言える。すべての対象は一義的に定量化できるとの見方、つまり現実主義に偏重すれば量子跳躍のような現実離れした現象は見逃されてしまう。反対に、抽象的美しさを追求する思想、つまり理想主義に重きを置けば尊重すべき実験結果との接点が失われてしまうだろう。偏りのない目で考察することが、物理学の進展には欠かせないのである。
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なんだか分からないけれど、読み終わった後は気分が軽くなった。おそらく次元が違うお話だったからだろう(笑)
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面白かったです。
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