「香君 下 遥かな道」を読み終わった。
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「香君 上 西から来た少女」の続きです。
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人という生き物は、過去に幸せだった思い出だけでは生きていけないのかもしれないわね。この先にも、なにか幸せがあると思えなければ苦しみを越えて行かれない。自分がしていることに意味がある、人を幸せにできると思えることが、私にとっては救いなの。
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人々が自分を讃えている声に鞭打たれながら、オリエはただ微笑みを浮かべて歩き続けた。
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大雨が降れば山が崩れ、人が死ぬかもしれません。でも、雨がまったく降らなければ作物も草木も育たない。適度であればいいと、生き物は、きっと、みな願っているでしょうが、神々は、この世をそういうふうには創っておられない。
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生き延びるという、最も大切なことを行うときにすら、人という生き物は様々な思惑にとらわれ、戸惑い、迷い、決断するまでに時間がかかる。危機感を共有することすら難しい。
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生き延びる、ただ、それだけのために行動するあの虫たちには、かなわない。
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支配者は服従させた者たちに、自らを頼って生きるように仕向けるものだ。温情を装いながら、親に頼らねば生きていけぬ幼児でいるよう仕向ける。服従した者たちがそれに反抗するかといえば、意外にそうでもない。親に頼って、守ってもらっていた方が楽だからだ。そうやって、帝国は成り立っている。
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以上引用です
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感想は・・・圧巻だった、世界観がすごい!
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よくこれだけ壮大な設定の創作物が作れるなと、はー
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著者は文学博士でもあるそうで、文章も素晴らしかった。自分には分からない言葉もたくさんあって、電子辞書で調べながら読んでいた(笑)
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人口増加による食糧危機や、気候変動、ゲーム理論など色々考えながらページをめくっていった。少し三国志のような感覚もあったかな。
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おそらくこの物語で伝えたかった事の一つは、自然に対する畏怖じゃないかな。
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今や人間はあたかも神のように遺伝子を組み換え、編集できるようになった。
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つまるところ、どんな生物も自由自在に人間の都合のいいように作り変えることができる。
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だからこそ謙虚な気持ちで動植物に接しないと未知のしっぺ返しをくらい、場合によっては取り返しのつかない事態になるかもしれないね。
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あと、ひとつのカゴに全ての卵を預けるのもリスクがある。選択と集中は大事な一方で、不測の事態が起きてLNGを止められることは想定しておかないといけない。
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最後はマイケル・サンデルよろしく功利主義だ。1万人の命が助かるのなら100人の犠牲は致し方無いのか、それとも等しく犠牲を負うべきなのか。これも正義はあるかもしれないが正解は無いことだと思う。
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印象的だったシーンはたくさんあって、アイシャと同じくらいにオリエが好きだったなー
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「私は、あなたのような香り万象を知る力は持っていないわ。でも、香君としての力は、ひとつ持っている」
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ぎゃー、かっちょいい!
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泣けたわ。最後はほんと良かった(詳しくは書きません)
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マシュウがミリアを説得する場面も好きだった。理路整然と外堀りを埋めていって、やんわりと懐柔させると。自分の中の勝手なイメージは西島秀俊さんだ(笑)
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あとね、イールが意外と素直に?折れたなと。少し見直した(笑)
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著者のあとがきの中で、参考書にペーター・ヴォールレーベン氏の「樹木たちの知られざる生活」があった。
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以前読んだ「後悔するイヌ、嘘をつくニワトリ」の作者でもある。
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この本から
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どの有害生物にも、その数を抑制する有用生物がいるというのも見事というしかない。
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むしろ私が望むのは、今の世界をともに生きるものたちと付き合うなかで、それが動物であろうと植物であろうと彼らへの敬意が少しでも戻ってくればいいな、ということである。
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そして最後に、この本「科学で解き明かす 禁断の世界」から
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ユトレヒト大学の研究では、においが音よりも強く鮮明に記憶を呼び覚ますことが確かめられた。記憶が不快な場合でも結果は同じだった。
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とても読み応えがありました。装丁も素敵で心が豊かになる本だと思います。
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興味のある方はどうぞー
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