「すごい神話」を読み終えた。
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著者は沖田瑞穂さんという方だ。日本語、日本文学の博士でインド神話と比較神話の専門家だそうだ。著者の作品は初めてだった。
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「世界巨人型」の神話は、原初の巨大な巨人や怪物が、殺害されたり死んだりしてその死体から世界が形づくられたと語っている。世界は死体からできている。そして私たちは、その死体の中で生きているのだ。
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神話では洪水のあとに、秩序ある新たな世界ができあがり、それがわれわれの知るこの世界だ。秩序の構築あるいは再構築を語るのが神話の大きな役割の一つなのだ。「天気の子」は洪水神話を(おそらく)無意識的に土台としつつも、逆の構造に作り直したのだ。それに加え、洪水の状態が続くという無秩序を描く作品の終わり方も考えると「天気の子」は反神話的物語であると言えるかもしれない。
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古代の神話でも、現代の文学やゲームでも「敵対者同士の一体化」という共通した構造を見出すことができる。その構造はおそらく人間の無意識から作り出されるものと思われる。
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世界の神話や昔話には「3」という数が頻出する。インドでは「3」がとりわけが重要な数字とされていて、サンスクリット語の名詞と形容詞には「性・数・格」がある。そのうち「数」には一つのものを表す「単数」、二つのもを表す「両数」、三つ以上のものを表す「複数」がある。つまりサンスクリット語の文法では「3」という数は、最小で最初の複数であり「完全」をも意味する。
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杯や、椀、器は「子宮」の象徴である。「聖杯」とは女性や女神のことである。そしてキリスト教における聖杯とは、キリストの種を受けた女性、マダグラのマリアである。
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女神とはその根幹として「生み出す」存在であり、その生み出した全てのいのちに責任を持たねばならない。生んだままでは、世界に生命があふれて秩序が成り立たないからだ。したがって、生んだからには、殺さねばならない。呑み込み、死を与えなければならない。これもまた女神の役割なのだ。
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「聖」の反対は汚れではない。「俗」、すなわちわれわれの営むこの日常である。それを「聖」の中に持ち込んではならないということを「口を聞くなの禁」によって説明しているのだ。
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生きるものは全て例外なく輪廻の輪の中にあり、生まれては死に、死んでは生まれることを繰り返さなければならない。神々であっても、神々の王と呼ばれるインドラであってもそこから逃れることはできない。そのような輪廻の思想の中で生きる現世とは儚く短いものでしかない。生まれ変わりというのは、生命に対する祝福ではなく呪縛であった。生きるとはつらく、苦しいものなのだ。したがって輪廻に留まるのではなく抜け出すこと、すなわち解脱こそが人生の最大の目的と考えられた。
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中国やインドの神話の盤上遊技において、ゲームの進行が世界の運行を意味している。これは現代のゲーム、特にRPGにおいて「神の視点」を持つプレイヤーがゲームという仮想世界を運行させていく構造とよく似ていると思われる。
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神話をめぐる旅を通して明らかになったのは、神話は過去の遺物ではない、ということだ。人の心理はどうしても神話を再生産する。あたかも神話の構造がそこに格納されているかのように。そして変形されたり反転させたり、また新しい要素を加えられながら、連綿と神話は語られ受けいれられ続ける。
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以上引用です
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感想は・・・深い!
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本に限らず、映画やゲームにも神話をもとにしたであろう暗喩や皮肉がよく出てくるよね。
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その時は想像で「きっとこういうことを言いたいんだろうなー」と漠然と思っているが、プロの解釈と説明を読むとより深いところで理解できる。
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終始「うーん」とうなりながら読んでいた(笑)
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神話の中にも一定のルールというかパターンがあるそうだ。そしてそれらが他国の神話や古事記などに派生していると。
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だからどこかで聞いたような、似たような話があるんだろうね。昔話や寓話にまでも広がっている気がする。
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そんな数千年前に作られた壮大な神話が現代の「鬼滅の刃」や「天気の子」、「進撃の巨人」といった人気作品にどういう影響を与えているのかを考察してつまびらかにしている。
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先日に遊んだPS4の「Horizon Forbidden West」にもゼウスやデメテル、アルテミスといった単語が頻出する。
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この作品も、神話から少なからずインスピレーションを受けているのは間違いないだろう。
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全ての物は何かに影響を受けているんだろうけれど、神話学のスペシャリストから見れば、より「オリジナルは存在しない」ということになるのかもしれないね。
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おそらく、矛盾点や違和感に激しく突っ込みながら作品を見ているんじゃないだろうか(笑)
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「ほほほ、またまたご冗談を」みたいな(笑)
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神話の世界では人口増加の問題を戦争で解決しているんだよね。その中でも印象的だったのはこのギリシャ神話だ。
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少し長いけれど引用させてもらう。
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あまりにも数が増えすぎた人間の重みに耐えかねた大地の女神が、その重みを軽減してくれるようにゼウスに嘆願した。
ゼウスは彼女を憐み、まずテバイをめぐる戦争を起こして多くの人間を殺し、次に女神テティスを人間ペレウスと結婚させて英雄アキレウスを誕生させ、またゼウス自身と人間の女レダとの間に絶世の美女ヘレネを生まれさせた。
そしてこの二人の主人公によって準備されたトロイ戦争においてさらに多くの人間を殺し大地の負担を軽減した。
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もう一つ好きだった神話を古事記から。
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世界の始まりの時に生まれたイザナキという男神とイザナミという女神は、結婚してまず国土を、次に神々を産んだ。
しかし、火の神カグツチを産んだ時に、イザナミは陰部を焼かれそのやけどが原因で死んでしまった。
愛する妻を追って黄泉の国に行ったイザナキだったが、「見てはいけない」と言われていたのに、黄泉のイザナミの姿を見てしまう。イザナミは蛆が湧き雷神がついた醜い姿に変わり果てていた。
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イザナキは逃げ、イザナミは追いかける。黄泉と地上の境であるヨモツヒラサカに至ると、イザナキは大きな岩でそこを塞いだ。
二人はその岩を挟んで別離の言葉を交わした。イザナミは「わたしはあなたの国の人々を一日に千人殺しましょう」と言い、イザナキは「それならわたしは一日に千五百の産屋を建てよう」と言った。これにより人間の死と誕生が定まった。
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ね、うなるでしょ?(笑)はー
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あと「マハーバーラタ」に出てくるクリシュナは諸葛亮孔明のような人だったのかなと想像していた。
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これまでもこれからも、姿形を変え、身をよじらせながら知らず知らずのうちに影響を与えていくものなのかなと。
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世界が広がります。読むしかない!
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