「水道を救え AIベンチャー「フラクタ」の挑戦」を読み終えた。
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著者は日本人で初めてグーグルへ会社を売却した起業家で、現在は水道管をデジタルの力で修復する「フラクタ」の会長らしい。
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この人の本は初めてだった。
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日本の地中には地球17周分の水道管が埋められている。法定耐用年数は40年。そのうち地球約4周分、15万3700kmが1980年以前に整備されている。本来ならすでに交換されていなければならない水道管で、未だ現役で使われている。
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国内での水の需要のピークは2000年で、それ以降右肩下がりが続いている。無駄使いが減るのはいいことだが、水道事業者の視点に立てば収入源を意味する。人口減少と節水は弱り目に祟り目なのだ。全国の水道事業者のうち33%が営業赤字である。
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壊れやすい菅と壊れにくい菅が混在し、壊れやすさの格差が広がっていくとシステム全体として壊れやすくなってしまう。まだまだ壊れにくい菅を古いからと交換し、そろそろ壊れそうな菅を新しいからと放置していては格差は広がる一方で全体としてより壊れやすくなる。
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イギリスでは、水道料金が使用量では決まらないという特性があり、多くの家庭には水道メーターが設置されていない。水道料金は家の資産評価ごとに定められていてどれだけ使っても使わなくても同料金。節水意識を作りにくい構造になっている。
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[コンセッション concession] 設備などの財産としては地方自治体(水道局)の所有とし、管理・運営については民間企業に委託する方式。
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「俺たち民営水道会社は、水道管の寿命を延命する必要がないんだよ。今の(古く、必ずしも精度が高くない)やり方で水道管の状態を評価して、それが間違っていたとしてもそのミスは水道料金に付け替えられる。つまり、俺たちはコストを削減するというモチベーションがないんだ。俺たちのビジネスモデルは公営の水道会社を買収してPUC(公益事業委員会)に持ち込んで水道料金を引き上げればいいんだ」
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[バーチャルウォーター] 食料を輸入している国が、もしもその食料を自国で生産していたとしたらどのくらいの水を消費していたかを示す指標。
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日本の食料自給率は38%(カロリーベース)で、6割以上を海外からの輸入に頼っている。これらの輸入食料の生産に必要な水は年間で60兆リットルとも言われている。日本はバーチャルウォーターの輸入量で世界一で、限られた資源を買い占めている国とみなされてもおかしくない。
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以上引用です
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いつものように知らないことだらけだった。
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日本のインフラは高度経済成長期に作られたものが多く、現在になってその老朽化のしわ寄せがきてるんだよね。
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道路や橋、トンネルと同じく水道管は生活にかかせない重要なライフラインで、ビッグデータとAIで壊れる前に保全しようという感じだろうか。
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デジタルの力で、事後修理ではなく予測して予防できると。
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人も同じで、定期的に健康診断や歯科検診を受けていれば、将来的に大病を患う可能性は減るだろう。さらに少量の唾液や血液、DNAで思いもよらない病気も予測できるようになった。
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事後にお金と時間をかけるなら、予防にコストを割いたほうが賢明だ。
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そういう点では似ているかもしれないね。
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日本はとても自然災害が多い国だ。台風や大雪で、水道管が破裂したり道が寸断して孤立化することもよくあるよね。
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コストだけで考えると、遠く離れた小さな地域のためだけにインフラを供給することは非効率的なことなんだろう。そしておそらくこれからの時代は継続できない。
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人口減少とインフラ老朽化のダブルパンチだ。
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空き家問題と同様に、根本的な都市計画をどうにかしないとユーチューブは「廃墟動画」で埋まってしまうかもしれないね。
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特に興味をそそられたのは水道事業の民営化の件だ。
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イギリスの水道事業は1989年に完全民営化され、民間の18社に集約されたそうだ。その結果として何が起こったかというと
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首都ロンドンでは毎年6000件もの漏水が起き、無収水率も下がらぬまま水道料金は上がり続けた。大企業と投資ファンドによって水道会社の株式は次々と転売された。転売先の大企業や投資ファンドはまさに水道料金の引き上げを期待してそれを購入するということが起こったのだ。マネーゲームが30年に渡って展開された結果イギリスの水道インフラはボロボロだ。これまで濡れ手で粟で利益を上げてきた投資ファンドは株式を売却し市場を退出するとも噂されている。
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民営化の問題のひとつは、水道料金に上限がなく消費者に青天井でコストを転嫁できることだろう。
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そして例え民間になっても競争原理が働かないと悲惨な事になる。この辺は国民皆保険が崩壊するのにも似ていると感じた。
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個人的に、ここは凄く大事なところだと思う。
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あとね、海外に行くと日本の水事情がいかに優れていて素晴らしいかがよく分かる。誰も高くてカルキ臭い水なんか飲みたくないだろう。
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蛇口をひねればキレイな水が飲めるのは当たり前のことではないのだ。
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もちろん、著者の会社のプローモーションもあるんだけれど、それを補って余りあるくらいに水道事業の将来と闇が分かる(笑)
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くわえて短期的な利益ではなく大きな視点で水の将来を考えている会社なんだなーと感じた。
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ワクワクしながら読めると思います。
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