「静寂の技法 最良の人生を導く「静けさ」の力」を読み終えた。
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政策立案者で瞑想講師であるジャスティン氏と、連邦政府機関のコンサルタントでサイケデリック薬物の研究者であるリー氏の共著だ。
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タイトルからして面白そうだったので購入。
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誰かが話しているときに、その人の言っていることを理解するためには毎秒約60ビットの情報を処理する必要がある。これには、音を解釈し、耳にしている単語に関連した記憶を検索することも含まれる。当然ながら人は、たとえば次の約束の時間を確かめたり、夕食用の買い物リストにつして考えたりして、しばしば自分の情報負荷にさらに多くを加えるが、認知科学者の計算では、人はほぼ毎回、毎秒126ビットという上限に突き当たる。人はこの地球上で何十億という人間に取り囲まれているが、一度に一人しか理解できないのだ(ミハイ・チクセントミハイ)
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[プレースフルネス] 自分が住んでいる場所、動植物、気候、地形、地表が文化と相互作用する様子に注意を払う慣行。
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「安全で社会的な状態」と呼ばれる環境下では、中耳の微小な筋肉が活性化し、人間の声など中音域を聞き取ることができる。ところが人間が闘争/逃走モードに入ると、それらの微小な筋肉は不活発になり、主にかつての捕食者が出していたような低音域と、別の人間あるいは動物が苦痛で悲鳴を上げているときのような高音域を聞き取り中音域が聞こえづらくなる。言い換えると、脅威を感じているときには実際にお互いが聞こえなくなる。
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騒音は、癒しに必要な実在から人を引き離す。騒音は人の適応能力に負担をかけ、闘争/逃走反応を促し、ウェルビーイングのフェルトセンス(漠然と体で経験している感覚)へのほとんど普遍的な脅威となる。
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地球規模ではWHOは今や、騒音公害を人間のウェルビーイングに対するコストの点で、大気汚染に次ぐ第2位に挙げている。最近の研究では、病気や障害や早期死亡により、西ヨーロッパだけでも生存年が毎年100万~160万年失われていると計算している。
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世の中で情報の量が急激に増えるに伴って、理論上は不確かさは減り、そのおかげで不安も減って然るべきであるように思える。だが、そう簡単にはいかない。その情報をすべて活用するほどの作動記憶を人間は持っていない。
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専門家が査読した研究からは、電源を切って裏返してあってもスマートフォンが部屋にあるだけで、人間の作動記憶(情報を一時的に保ち、処理する能力)や問題解決能力は損なわれる。
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これは覚えておかなければならない。データは増えていくけれど、それを処理する私たちの能力は上がらないのだ。情報は、受け取る人間の注意を消費する。したがって、豊富な情報は注意の貧困を生み出す。
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ユダヤ教の戒律では、近親を亡くした人を訪れる者は沈黙を守るように指示される。話しかけられない限り口を利かないように、と。哀悼者のために神聖な空間を保てば、彼らは自分の悲嘆の中に身を置くことができる。沈黙を保てば私たちは善意ではあってもしばしば気の利かない言葉によって、哀悼者の経験を陳腐なものにしてしまう危険を冒さずに済む。
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[観想] 自分を空にしてひたすら耳を傾けること。瞑想とは少しばかり違い、自分個人の主体性をもっと大きな謎に引き渡すための準備として、自己の中に静けさを見つけること。
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没入型の身体的な動きが生み出すユーストレスは、注意の大半を要求する。他に回すだけの注意が残っていないので人の注意のフィルターはわずかな量の肝心な材料を選りすぐるために集めた情報の圧倒的多数を素通りさせなければならない。そうした身体的活動をしていると、過去や未来についてやかましい思考をくどくどと繰り返す余力はほとんど残らない。
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人はストレスの感覚を生き生きとしている証拠と取り違えることが多い。「人は、心がほとんど途切れなく情報を受けていないかぎり、自分の人生には意味がないと無意識に思い始めます。たとえ、刺激が心と体の中で絶え間ないプレッシャー、あるいは自分を疲労困憊させるストレスのように感じられていても果てしない刺激は自分が本当に生きていることを意味すると信じ続けます」
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自然を眺めることができる患者は、そうでない患者よりも手術から急速に回復し、土いじりを5分間するだけで副交感神経の活性化の仕方が変化し、たとえ屋内からでさえ緑の風景を眺めると心拍数が下がる。
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読書は人を自己超越へと向かわせることができる。たしかに、読書は精神的刺激の一種だ。それにもかかわらず、その中に身を置いていると、内と外の気を散らすものを乗り越える手段になりうる。たとえ心は詳細や主題を追っていても、人はそれでもなおその中にいられる。外部の音や情報に心を開いていない。自分の過去や未来について善悪や是非の判断や期待を抱いていない。
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「間」というのは、音楽から茶道まで、そして演劇から生け花まで伝統的な芸術と文化に浸透している原理であり日本の文化的価値観である。
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[ウパーヤ] 仏教用語で、人を苦しみから救い出して悟りに向かわせるのを助ける便宜上の手段であることを説明するのによく使われる方便のこと
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「騒音のコストのひとつは、人生で何が重要かがよく分からなくなることです」
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「制度全体が、静かでいないことへのインセンティブに基づいて構築されています。アテンション・エコノミーで静かにしていたら負けてしまいます」人の注意の保護は地球上で屈指の力を持ついくつかの企業の中核的な金儲け事業と衝突するというのが現実だ。
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GDPは産業用の機械装置の唸りとともに増大する。だが、デジタル機器に内蔵されたアプリのアルゴリズムも一役買っている。アルゴリズムはあなたが1日のうちでも静かな時間を過ごしていると推定すると、ここぞとばかりに通知を出してあなたの注意を勝ち取り、使用統計値を押し上げ企業の収益が増す。経営陣が従業員に午後11時にメールに応じさせる新たな機会を見つけ、休養という非生産的な活動を貨幣経済への検証可能な貢献へと転換するとGDPが増える。
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犯罪の発生率が上がり、通勤時間が延び、燃費の悪い自動車が増えるのとともにGDPの増大も加速する傾向がある。一方、私たちがくつろいだり、ファストフードを買う代わりに自宅で夕食を調理したりするのに時間をかけるとGDPの伸びは鈍くなる。
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一国の繁栄は国民所得の測定からはほとんど推察できない(GDPの考案者 サイモン・クズネッツ)
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過去1世紀間、社会全体の成功を示す第一の指標は「成長」、すなわち生産や効率や所得といった要因だった。だが成長は産業用機械の唸りや、管理職が従業員をコンピューターに張り付けておける時間数や、人の注意を本人がするつもりのことから逸らして精神やサービスを購入する方向に導く広告とアルゴリズムの有効性と相関しているころが多い。騒音の世界を変容させるためには、自然や休息の機会の維持、人間どうしの繋がり、静かな時間など大切なものを測定しはじめる必要がある。
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以上引用です
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騒音は大きく分けて、聴覚のサウンドスケープの騒音(聴覚騒音)、情報の領域の騒音(情報騒音)、自分の頭の中の騒音(内部騒音)の3種類あるそうだ。
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そんなうるさすぎる世の中に対する向き合い方を教えてくれる手引書だ。
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個人的にうるさいのは大嫌い(笑)
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まず目の前のことに集中できない。単純にストレスだ。外部の騒音(聴覚騒音)を引き金に、段々と自分の頭の中の騒音(内部騒音)に至るパターンが多いと思う。
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入り口に集中できる環境が設えられていない限り「集中していて周りが聞こえなかった」なんて状態にはなれそうにない。
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一方で情報騒音は管理できているほうだろうか。ほぼスマホはマナーモードで、いかなるアプリにも通知はさせない(笑)
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便利さと引き換えに、どれだけ自分の集中力を明け渡すかは人それぞれだろう。
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ちなみに本書はマインドフルネスとは違うアプローチを取っている。
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なぜなら、マインドフルネスに人をランダムに参加させるとその7割が推奨されるレベルを保てないそうだ。そして実験中ですら3分の1から、半分の人が練習を完全にやめてしまうと。
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とどのつまり、瞑想は「真剣な実践者向け」であり、それより万人に向けたメソッドが提案されている。
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そのひとつが騒音に気付くこと。そして、静寂に波長を合わせることだ。
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自分が日常で一番心の落ち着きと静寂を感じられるのは読書だろうか。
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カフェや病院の待合室では読めないほうで話が入ってこない。もうね、ただの読んでるフリ(笑)一人静かな部屋で椅子に座って読むのが好きだ。
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ジャンルによってドキドキしたり心をかき乱されたりするときもある。しかしながら、本書にあるように本当の静寂というのはボードゲームをしたり手芸をしたりしても感じられるものなんだよね。
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つまるところ、気を散らされることなく、その瞬間にその場にしっかりと存在することだ。
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何かを考える余白すらないフローみたいな感覚だろうか、本では実在と説明されている。極端な言い方をすると、本の内容はさほど重要ではなく、読むという行為自体が心を整えている時間なのかもしれない。
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きっと静寂に浸るというのは精神的、内面の断捨離でもあると思う。そういう瞬間を日常で増やしていければまた違う一面が見えてくるんじゃないかな。
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第10章から徐々に実践的なお話になって、最後に「33通り静寂の見つけ方」が丁寧にまとめられている。
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自分自身と向き合って現実に直面するくらいなら、気を散らしてくれるものを探す方が心地いいかもしれない。ずっと無限スクロールと自動再生に流されていたほうがラクかもしれない。
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それでも、慌ただしい日常に瞬間でも取り入れられる方法が何かしら見つかると思う。ぜひ読んでみてほしいな。
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最期に印象に残ったところを
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「音楽は音符の合間の静寂にある」クロード・ドビュッシー
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「雄弁は銀、沈黙は金」トーマス・カーライル
(雄弁は束の間のもの、沈黙は永遠のもの)
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「人類の問題はすべて、人間が独りきりで部屋に静かに座っていられないことに由来する」ブレーズ・パスカル
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意図的に作ったものであれ、偶発的に起こったものであれ、人生の余白をむしろ楽しみながら大事にして生きたいものだ。
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