「テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想 」を読み終えた。
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橘玲さんの新作ということで面白そうと購入。
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右翼と左翼は不倶戴天の敵のような関係だと思われているが、最近は市民運動の集会に新右翼の団体が参加することが珍しくなくなった。しかしこれは不思議でも何でもなく図を見れば分かるように市場原理を否定することで両者の思想は通底しているのだ。
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現代のテクノ・リバタリアンたちはヒッピーや、コミューン、東洋思想よりもSFやアニメのようなサブカルチャーの申し子で子供の頃に憧れた世界をテクノロジーの力で実現しようとしているのだ。
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高度化する知識社会では、並外れた論理・数学的知能とイノベーションの能力には巨大な価値がある。だが、ハイパーシステム化した脳タイプを持つ者は自閉症の子供を生み出す可能性が極めて高い。
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バロン・コーエンは、自閉症の子供が急増している理由の一つは「同類交配」だと推測している。学歴社会ではシステム化能力に恵まれた者同士が、大学やハイテク企業でますます出会いやすくなり彼らの間に多くの子供が誕生する。高く調整されたシステム化メカニズムは、卓越したマインドを生み出すことができるが、さらに高いレベルに達した場合に学習障害として現れる可能性があるのだ。
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[高知能の呪い] 他者との共感をうまく構築できずに、普通の人が夢中になるものを理解できないこと。正規分布では平均から1標準偏差の範囲に全体の約7割が収まる。大衆社会では大半の娯楽はこの層に向けて提供されるが、そうなるとこの高知能者には楽しめるものがほとんど無くなってしまう。
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[効果的な利他主義者] 善意もコストパフォーマンスで考えるべきで、同じ1万円を慈善活動に投じるならたまたまテレビで見た「かわいそうなひとたち」に寄付するのではなく、自分のお金が最も有効に使われるプロジェクトを支援するべきだと考え、さらに苦しい家計から捻出した善意の1万円よりも、大富豪からの1億円の寄付のほうがずっと大きな価値があるとする。1万円で1人の生命が救わえるとすれば、1億円では1万人が救えるからだ。「優秀な若者がボランティア団体で働くのはコスパが悪く、ウォール街などの高給の仕事についてその給与からより多くのお金を効果的な慈善団体に寄付すべきだ」ということになる。どの慈善団体が「効果的」かは、理念(きれいごと)や著名人のお墨付きではなく、ランダム化比較試験によって客観的に数値化して判断する。
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カジノはいまや、単年度の利益を追求するのではなく、顧客一人ひとりの平均余命から「予測生涯価値」を計算し、生涯にわたって利益を最大化するビジネスになっている。いやばギャンブル版のSDGsで、スロットマシンは顧客の脳の報酬系を適度に刺激し、破綻しない程度に依存させるようにプログラムされている。
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知識社会とは、定義上、「賢いものがそうでないものを搾取する社会」のことだ。フェイスブック、ユーチューブ、ティックトック、ライン、ネットフリックスなどのプラットフォーマーは、ユーザーの時間という希少な資源をめぐって熾烈な争いをしている。これを端的にいえば、テクノロジーを使って、いかにしてユーザーを効率的に自社のサービスに依存させるかという争いだ。
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サム・アルトマンの「ワールドコイン財団」は世界の80億人UBI(ユニバーサル・ベーシックインカム)を支給することを目指している(ブロックチェーンの技術で)だがこの野心的な計画にも重大な弱点がある。ボットを使えば一人で何千件、何万件、それ以上のBIを受け取ることができてしまうのだ。
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ブロックチェーンは原理的に書き換え不可能だが、これには例外があって、全体の半分超のコンピューターパワー(ハッシュパワー)を獲得した者(グループ)は自分に都合にいいようにチェーンを改竄することができる。これが「51%攻撃」で中央集権的な組織のないブロックチェーンの基底には単純な多数決がある。
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ブロックチェーンは中央集権的な組織によらずにデータの真正性を認証できるイノベイティブなテクノロジーだが、「人間であること」の証明はできない。
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UBIに熱をあげるシリコンバレーには、新技術によって追い出される人々を心から心配している者も少しはいるだろう。だが、もっと利己的な動機もあるのではないか。破壊者であり巨万の富を持つシリコンバレーの起業家たちは事態が暴走し始めた場合に暴徒の怒りの標的になる。彼らは生々しい恐怖を感じているため、問題の即効薬を前もって探し始めたのではないだろうか(カイフー・リー)
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COST(共同所有自己申告税)は私有財産に定率の税(富のCOST)を課す。その税率は7%とされている。私的所有物にCOSTが課されると富の概念が変わりコレクションは意味を失う。あらゆるモノは「保有する価値」ではなく「使用する価値」だけで判断されることになるのだ。
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テクノ・リバタリアンの理想を阻むのは国家や中央集権的な組織のような「敵」ではなく、わたしたちの進化的な制約であり、認知的な脆弱性だ。
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以上引用です
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リバタリアンとは道徳的、政治的価値の中で自由をもっとも重要だと考える自由原理主義者のことだ。その中でも極めて高い論理、数学的知能を持つ者をテクノ・リバタリアンと呼ぶそうだ。
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確かベイズの定理を初めて目にしたのは「シグナル&ノイズ 天才データアナリストの予測学」だったと思う。
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ある状況が変化するとき、動的にその確率を更新できる能力だ。
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そんなイーロンマスクやピーター・ティール、サム・アルトマンやヴィタリック・ブテリンのような、世界を数学的に把握する天才たちがどんな将来像を描いているかが著者独自の視点で書かれている。
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イーロン・マスクは元々リベラルだったんだけれど、同じリベラル派(SJW Social Justice Warrior)から攻撃を受けてリバタリアンに転向したんだよね。
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つまることろ、一転自由を抑圧するリベラルと戦う側になった。
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そしてイーサリアムを若干19歳で開発した神童ブテリンもリバタリアンであったにも関わらず、ハッカーに不正侵入されたのきっかけに民主的な意思決定に重きを置くようになる。
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この二つから人間味を感じたのは自分だけだろうか。
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ギフテッドは他者への共感、感情を読み取る力が弱いとされるけれど、社会的な経験や人との交流が決断に影響を及ぼす可能性はあると思う。
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さらに言えば、信念の軌道修正なんぞ全く厭わないと感じた。ある程度の合理性があれば自分の思想の変化、間違いは即座に受け入れると。
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PART4 のネクストジェネレーションは特に興味深い。現実的な移行はさておき、COSTの世界やQVによる投票はワクワクできると思うよ。ぜひ読んでみてほしいな。
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自由を至上のものとするリバタリアンですら2つに分かれていて、クリプト・アナキズム(無政府主義)と総督府功利主義が監視社会をめぐって対立している。
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すべての理想を同時に実現することはできない世の中で「究極の自由」とはなんだろうね。
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これまでの著作と重複する箇所もあったけれど面白かった。既読の本が何冊か引用されていたのも入りやすかった。
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あとね、読後はX-MENを見たくなると思うよ(笑)
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興味のある方はどうぞー
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