「こころ」はどうやって壊れるのか 最新「光遺伝学」と人間の脳の物語を読み終えた。
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著者はスタンフォード大学の生物工学、精神医学、行動科学の教授で医師でもあるそうだ。この人の本は初めてだった。
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「光遺伝学」という言葉にそそられて購入(笑)
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光遺伝学では、細菌や単細胞藻類のような異なる微生物から遺伝子を借りて、それをマウスや魚のような私たちの仲間である脊椎動物の脳細胞に届ける。なぜなら、私たちが借りる特定の(微生物オプシンと呼ばれる)遺伝子はニューロンに届けられるとすぐに光を電流に変えることができる驚くべきタンパク質の生成を命じることができるのだ。
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ほとんどの動物のニューロンは光に反応しない。操作されたニューロンは研究者によって送られる光のパルスに反応できる唯一の細胞である。
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躁病はしばしば深い鬱病で終わり、多くの患者は上向き状態から下向き状態へと循環する。しかしその理由は誰にも分からずANK3の研究からも答えは出ていない。発症は予測不能であり、精神病、思考停止、自殺性鬱病のような悲劇的結末、そして死をともなうこともある。
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意識が加わって融合するには、長い時間が必要である。単独の脳細胞が発する電気信号のスピードより100倍遅い。2ミリ秒ではなく200ミリ秒の話だ。世界が針のひと刺し、予想外の音、軽い接触など、新しいビットを送ってくるたびに意識が強烈な光を放つまでにほぼ4分の1秒が経過する。反射作用のような無意識のプロセスはもっとはるかに速くてすむが意識はどういうわけか時間をかける。
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「そうですね、先生のことを見て話ているとき、先生の顔が変わるとそれが何を意味するのかとか、それにどう反応するべきなのか、言っていることを変えるべきなのか考えなくてはなりません。えっと、そのオーバーロードになるんです。残りの私がオーバーロードになります」
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既知の青色光駆動のチャネルロドプシンを補うために、赤色駆動のチャネルロドプシンを初めて生成した。この進歩のおかげで、同じ動物内で一方の細胞集団(興奮性)の活動を青い光、別の集団(抑制性)を赤い光によって操作することができるようになった。その実験は、興奮性細胞の活動を高めることが、健康な大人の哺乳類で社会性の欠損を引き起こしかねないこと、そしてこの影響は同時に抑制性細胞の活動を高めてシステムのバランスを回復させることで改善できることを示した。
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神経科学者は現在、特定の細胞と脳全体の連絡を光遺伝学の標的にすることによって交換比率を設定し、動物が何かの行動をとる可能性を正確に調整することができる。たとえば、特定の標的回路しだいで、動物の攻撃、防御、社交、セックス、空腹、渇き、眠さ、活力を強めたり弱めたりできる。
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重要なのは、自分自身の思考に対する制御はいずれにせよ錯覚にすぎないことだ。人間にしかない、制御しているという幻想である。直感が何を望むかを決めてはじめて、思考が命令されるのであり、架空の思考順序が遡って構築され導入される。私たちの思考におけるこの順序の知覚は行動に対する行為主体性と同じくらい非現実的だ。どちらもこじつけであり、神経系の埋め戻しにすぎない。
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[ツーヒット説] 哺乳類はあらゆる遺伝子とその他のバックアップシステムをそれぞれ2個(2コピー)持っているので、がんが生じるためにはDNAに別の変異が起こること、つまり第2のヒットが必要であるという考え方。
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拒食症の患者は成長と人生の進行を抑制する。そして時間そのものも抑制するように思える。拒食症は若い患者の性成熟をはばみ、老化を遅らせ、薬では治療できない。
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過食症は狂おしいほど心躍る報酬をもたらす。食物摂取を最小限に抑えるのではなく、それを最大限で安定させるのだ。過食症は深い欲求を満足させることができ、純粋で健康な見かけを残しながら最も生々しい報酬を提供する。拒食症より多くの方法で人を興奮させ、傷つけ、最終的に命を奪う。
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摂食障害はどんな精神疾患よりも高い死亡率を示す。
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認知症で最も広く認められる症状は記憶喪失だが、認知症は単なる健忘のことではない。もっと根本的にこの言葉は心そのものの喪失を意味する。
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認知症になると乳児の反射作用がもどってくる。霊長類の赤ん坊が生き延びるために進化が演出した動きで、モロー反射(体が突然落とされたり、移動が加速したときに腕を振り上げる動き。樹上生活をしていた祖先からの名残であり、祖先の幼い命を救った)とルーティング反射(頬を軽く触られると、ミルクを探そうと首を回して口を開ける動き)呼ばれる。
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[全光生理学] 光によって神経細胞の活動を操作するだけではなく、神経細胞の活性化状態の変化も光によって同時に観測するという新しい形の光遺伝学。
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以上引用です
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全編通して、著者のこれまでのキャリアと経験の回想録のような仕上がりになっている。
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つまるところ、かなり文学的だ。
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光遺伝学の説明も途中ちらほら出てくるけれど、一番理解が深まるのは最後の加藤英明教授の解説だと思う。光遺伝学についてのみ知りたい人は最後から読んだほうがいいだろう。
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光遺伝学って何?(笑)
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以前、遺伝子を組み替えて光るメダカを販売していたとして逮捕された事件があったよね。目立つマーカーなるものを付けて、病気の症状をより詳細に分析できるようになると。そんな感じなのかなーと思っていた。
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詳細は読んでもうらうとして、簡単に言うと
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あるタンパク質(緑藻から作られたチャネルロドプシン)を神経細胞に発現させることで神経細胞の興奮状態を光によって可逆的に制御できるらしい。
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はぁ?(笑)
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一般人には難しい。そうすることでマウスに幻覚を見せたり、満腹状態でさらに食べさせたり、ヒゲを動かしたりできるそうだ。
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そしてこの技術を使えば人の抑うつも観察、操作できる可能性が高く、精神疾患の治療にブレイクスルーをもたらすと。
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別に怪しい宗教ではないようだ(笑)これから頻繁に耳にする単語になるのかもしれない。
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メリットとしては、脳を傷つけることがなく観察できて、健康なときでも病気のときでもシステムそのものを分解することなく機能を生み出す構成要素を研究できることらしい。
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なるほど、ロボトミーを施すわけでもなければ、遺伝子を組み換えることもないしゲノム編集することもない。
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心のメカニズムが解明されるのと同時に、人の感情すらコントロールできる世界はどうなるんだろう。
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あと、第5章の統合失調症のウイニーとAJは姉弟だったので、おそらく遺伝の要素が大きかったのかな。
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最後に刺さったところをもうひとつ
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今日の生命科学研究所において不可欠となっている緑色蛍光タンパク質GFPを用いた様々な実験技術は、元を辿ればオワンクラゲの研究からはじまっている。また、昨今ゲノム編集技術の基盤として高い注目を浴びている CRISPR/Cas9 システムも、もとは微生物が有する免疫システムの研究から発見されたものである。こうした例は枚挙にいとまがなく、一見その社会的有用性が明らかではない、萌芽的な基礎研究を支援する重要性は、光遺伝学の歴史を読み解くことによっても再確認できるのではないかと思われる。
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少しがんばって読んでみると面白いと思います。
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興味のある方はどうぞー
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