「シン・中国人 激変する社会と悩める若者たち」を読み終えた。
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著者は北京在住26年のライターらしい。この人の本は初めて読んだ。
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2020年の中国男性総人口は7億2141万人、女性は6億8836万人だ。結婚率が100%だったとしてもすべての年齢層をひっくるめてざっと約3300万人の男性が女性より多い計算になる。
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中国では結婚の際に嫁の家に結納金を送る習慣は2000年以上の歴史がある。例えば山東省のある村の結納金は合わせて16万元(320万円)もの大金になる。
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戸籍は地方出身者にとって、大都市での正規住民としての権利を意味する。国際的に例えるなら先進国の永住権に近い貴重な存在だ。
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「中国人の整形顔は3、4人のスターに顔に倣ってやるからみんな同じ顔!14億人が思う美人の基準は超統一されてるよ」それは --- 二重まぶたと落ちそうなくらい大きな瞳、とがった顎、高くて筋の取った鼻、つるつるの白い肌、長髪のフランス人形 --- のような顔だ。
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経験の少ない若者にとって不運な環境はネットやスマホにおけるハウツー情報の氾濫だ。何でも手っ取り早く、失敗せずに効率的に結果を出そうと前のめりで進む中国では、恋愛さえも専門家の言に従って効率的に失敗しないようにやろうという空気が濃い。
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中国では、結婚しても全員が夫婦別姓だ。日本の働く女性からみると羨ましい名前事情がある。そして中国の女性は圧倒的に経済的に自立しているので、不和になった際に我慢せずにすぐに離婚に至りやすい。
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中国には日本のように、数十年働いてお金を貯めてから新居を買うという発想自体が存在しない。賃貸マンションを借りる場合、住民の権利が保障されず「明日、出ていけ」と家主に言われたら終わりという住宅賃貸ルールの違いをその理由に挙げる人もいる。
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20年の新エネルギー車のナンバープレート申請者数は46万人、その年に新規に発行されるのは抽選に6万枚だけだ。北京市では基本的に抽選だが、上海市では競売で買うものだ。そして、驚くなかれ、平均価格は9万1000元(約180万円)以上と高額に上る。
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国が運営する正規の医療保険に加入していても、大手公立病院に入院する際はまず、現金かクレジットカードで2万元(約40万円)保証金の入金が必須だ。このお金を病院のレジに持って行かない限り、どんなに目の前で患者がもがいて苦しんでいようとも、医師の指示書があっても入院は不可能だ。
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北京市にはどんなに長く住んでいようとも、少なくとも両親のどちらか一方が北京戸籍を持っていない場合は、外省出身者の子供と見なされ、北京での高校進学も、北京市枠からの統一大学入試の受験もできない。大学受験のテストは各直轄市・省単位で実施され出題傾向と合格基準が異なる。つまり、同じ北京大学を志望しての受験でも、どの地域から受験するかによってテスト内容も合格点も変わるのだ。
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子供の教育を重視することは本来良いことだ。だが、それが学歴重視になると中身は別だ。さらにその学歴が重視されるのは角度を変えてみると、子女教育を子供の人生の成功への確実な手段として捉え、子供の成功は一族の繁栄、ひいては親の老後保障のための先行投資と捉える。
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第2子以降の戸籍登録には年収の6倍以上の罰金のほかにも、「過ちの原因」その他について記入・申請する必要があった。そこには「避妊に失敗したため」という申し開きが一般的に使われた。中国では理不尽なルールの下で生きるために、創造的なウソをつく技術が嫌でも身につく。
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多くの中国人は徹底的に実力を問うメンタリティーを持っている。人のせいにして「どうせ私なんて」「誰も私の気持ちを分かってくれない」などと嘆き調で甘えることなく、自分のことは自分の実力次第で自分の責任でやり抜くと覚悟を決めている。これは中国の人が持つ成熟した大人の態度で、私が最も尊敬する中国らしさである。
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[早恋(ザオリエン)] 高校生以下の恋愛のこと。基本的に非生産的でリスクが高い好ましからぬ行為と見なされていて大人は忌み嫌う。
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[躺平(タンピン)] 過度な競争を避けて必要最低限の生活を楽に送ること。外部の高圧的な環境に巻き取られることなく自分の意志で真っ直ぐに楽に横になるという意味(日本語の翻訳は寝そべり族)
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[焦慮(ジヤオリユ] 競争に乗り遅れたらどうしようという焦りや思慮
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[985廃物] 人々が羨む名門大学に見事進学したものの、その後も続く過酷な競争で切り捨てられ挫折すること。
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以上引用です
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著者は現地で長年住んでいるだけあって、ステレオタイプではない市井の人のリアルが感じられた。
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日本人は知らないであろうエピソードがそこかしこに散りばめられているので最期まで楽しみながら読めた。
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感想は・・・変化のスピードが桁外れ。
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世界で100年ほどかけてようやく達成した社会的変化を、中国では数十年で達成したんだよね。
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著者は中国スピード(圧縮型の成長)と呼んでいて、素晴らしい偉業である一方でその分歪も大きくなると。
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個人的に一番興味深いのは人口政策だ。
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人民を飢餓に陥らせ、ブルジョアとインテリ層を弾圧しているときは多産を推奨、しかしながらその数年後には「富めるものから富むように」と180度転換しつつ、一人っ子政策に舵を切る。
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そして2016年以降は一人っ子政策を廃止して2人まで、2021年には3人まで出産が可能になる。
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もうむちゃくちゃだって(笑)ファミコンのようだ。
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中国の親子間に世界最大級のジェネレーションギャップがあるというのも頷ける。
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つまるところ、全ては体制のために。
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決して中国人が悪いのではなく、結果的に親子間、友人間、恋人間など、人と人の関係をぶった切るような政策を推し進めている共産党の問題だ。
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そう思わずにはいられない。
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意外だったのは、中国の若者の間には「気まずい」や「心が折れる」なんて言葉が浸透しているそうだ。これも時代の変化で世代間のギャップを物語っていると感じた。
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学歴、職業、結婚に悩むのは世界共通で、他の若者とそんなに変わらない。
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ただ、14億人がひしめき合う巨大なマーケットで、人を出し抜いてひたすら高みを目指す人生に希望が持てなくなるのも分かる。
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とどのつまり、みんな急いでいるのだ。
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そして、急げは急ぐほどまた悩む。自分の軸ができないからね。窮屈な社会では尚更に。
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一方で、中国人の変化に対する対応力はおそらく世界でもトップクラスじゃないだろうか。いい意味での狡猾さ、そして逞しさも感じたな。
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最期にこの本「限りある時間の使い方」から
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生産性とは罠なのだ。効率を上げれば上げるほどますます忙しくなる。タスクを素早く片付ければ片付けるほど、ますます多くのタスクが積み上がる。
心の安らぎと解放は、承認を得ることからではなく「たとえ承認を得ても安心など手に入らない」という現実に屈することから得られる。
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そしてもう一つだけ
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Be water, my friend (ブルース・リー)
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シン・中国人がよく分かると思います。興味のある方はどうぞー
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