「THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す 」を読み終えた。
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「GIVE & TAKE」や「ORIGINALS」の著者であるアダム・グラント氏の最新作だ。ファンです(笑)
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[Seizing and Freezing] 獲得と凍結。答えを獲得するとそれを保持しようとする欲求。
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他人の見解であれば、私たちは目ざとく再考の必要性を指摘する。だが残念なことに、いざ自分の知識や見解となると「正しいか」ではなく「フィーリング」(直感的に正しいと思うか)を物差しにしがちだ。
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脳の処理速度が速いからといって、柔軟な思考の持ち主であるとは限らない。
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つまるところ、私たちが学ぶのは、自分の信念を肯定するためではない。学びの目的は、信念を進化させることなのだ。
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[ファットキャット症候群] 成功により自己の無能さを認めなくなり、機会を見失うようになる精神状態。
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知識の欠点は、時として未知を受けたがらないことだ。
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[アームチェア・クォーターバック症候群] 能力をはるかに上回る自身を持つという心理的状態。
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能力の低い人は多くの状況において、自己の不適格性を認識できないという(ダニング・クルーガー効果)この効果によると、人は能力が欠如している時、自信過剰になる傾向にある。ダニング・クルーガークラブの第一の規則は、自分がこのクラブのメンバーかどうか分からないことだ。
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将来の目標に達するのに十分な能力が備わっていると自信を持ちながら、そのための正しい手段は何かと現在の自分に問う謙虚さを持つこと。そう、それが最適な自信レベルである。
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トータリタリアン・エゴ(全体主義的エゴ)は過信サイクルを起動させることにより思考をコントロールする。まずは自身の誤った見解をフィルターバブル(望ましい情報以外を遮断する機能)で保護し、それを支える情報だけしか見えなくする。すると、確信と偽りの自信が増す。そして、信念はエコー・チェンバー(反響室)に密閉される。そこでは自分の信念を増幅あるいは補強してくれる人の声しか聞こえない。そのような防衛の砦は頑強であるように見えるが、近年、それを打ち壊そうとするエキスパート集団も増えつつある。
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時折、ある主張を熱狂的に信じる人々に出くわすことがある。例えば、特定の単純化して説を妄信し、フォロワーを集め考えを広く拡散する人たちがそうだ。彼らは自分の信奉する観念の美点ばかりを声高に唱え、複雑さやニュアンスを求める者を非難する。
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自分が何かを学び得たかどうかを知る唯一の方法は、自分の過ちを発見することだ。自分の考えを頻繁に改めなければ間違うことも多くなる。
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男性が自虐的ジョークを言うと、彼らはより有能に見られるが、これが女性の場合は過小評価されがちだ。女性が自分自身を笑うのは、それは無能さや不適格性のあらわれではなく、自信と謙虚さ、機知を備えているという証であることに多くの人が気づいていないようだ。
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研究では、人は、自慢したり謙遜したりするよりも、自身の最大の欠点を認める志願者により興味を持つことが明らかになっている。
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先入観にとらわれ、偏見が根深くなるにつれ、自分がどんなグループに属しているかだけでなく、自分が属していないグループについて定義することで、自分たちは何者であって何者でないかを自覚するようになる。味方サイドの美徳を説くだけでなく、さらにライバルの悪徳を非難することによっても自尊心を高めるのだ。
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概して、権力がある者ほど考えを改めるにはより多くの再考を要するものだ。それは権力がある者は自らの見解を別格扱いする傾向にあり、異を唱えられることもほとんどないからだ。そして多くの場合、弱い立場にいる人々や軽視されている人々は、集団に溶け込むために自分の主義や意見を曲げて人に従っている。
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多くの人は話をする時、自分を賢く見せようとする。それに対し、優れた傾聴者が賢く見せようとするのは自分自身ではなく対話の相手だ。患者は自分の症状を説明するのに29秒必要だが、医者は11秒経たないうちに患者の言葉を遮るという。
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バイナリーバイアスとは複雑に連関した事象を2つのカテゴリーに分けることで単純化し、明確性、認知的閉鎖(問題に対して確固たる答えを求め、曖昧さを嫌う欲求)を手に入れようとする人間の基本的な傾向である。こうした好ましくない傾向への対処法は「複雑化」である。
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選択肢が白と黒しかない場合、私たちの思考様式は必然的に「私たち」対「あの人たち」という型にはめられ、科学よりも勝ち負けに関心が向けられてしまう。中立の立場にいる人がどちらつくのかと迫られた時、感情的、政治的、そして経済的な圧力に押され、問題について考えることも関わることも拒否するようになる。
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心理的安全性の高いチームでは、人為的ミスの報告がより多かったが、ミスの頻度はより少なかった。自身の過失をためらうことなく認めることができる環境では人々は過ちから学び、その原因を取り除いて進歩することができた。
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一つの目標のために全力で打ち込んでいるが、それがうまく進まない時、私たちは直感的に考え直さないことが多い。そのかわりに倍賭けし、より多くの資金や労力を投入する傾向にある。このパターンは「立場固定」と言われている(サンクコストもあるが、最大の要因は経済的なものではなく、心理的なものである)
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人は年を重ねるごとに意義を追求することに重きを置くようになる。そして他人に貢献するという行為に意義を見出すことが多い。特に人生の中盤あたりになると、人は仕事でも私生活でも他人に与えられるものをより多く所有していると自覚し、とりわけ次世代の人々に自分の知識やスキルを伝授しようと熱心に取り組むようになる。
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幸福以外の何か他の目的に心を傾けている者だけが、幸せだと感じるのだ。例えば、他人の幸せ、人類の発展、ある種の芸術や趣味などを手段とするのではなく、それ自体に理想の目的として情熱を向ける。幸せは目標ではなく、目標に向かう道のりで見つけるものだ。
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考えることよりも考え直すほうが難しい。心理学はその理由を2つの認知的バイアスで説明する。1つは自分が予期するものを見ようとする「確証バイアス」、もう1つは自分が見たいものだけを見る「望ましさバイアス」だ。
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再考サイクルを駆動するのは「謙虚さ」だ。無知や欠点を自覚することによって「懐疑」への道が開ける。「懐疑」の心からは「好奇心」が生まれる。好奇心に基づいて知的探索するうちに新しい「発見」と出会う。この経験を繰り返す中で「学ぶべきことはたくさんある」という自覚が促され謙虚さが維持される。
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旅行中には多くのことができます。例えば、リラックスしたり、見たことのないリスを見たりはできるでしょう。しかし、もっと根本的な問題を解決することはできません。例えば、集団行動でのあなたの振る舞い方や行儀の悪さといった問題です。旅行中にハイキングに行くことはできます。でも、ハイキング好きに変えることはできません。忘れないでください。旅行中であっても、あなたはあなたであることに変わりありません。あなたの国にいる時、あなたが悲しい人であれば、勇んで飛行機に乗ってイタリアに来ても、あなたは前と変わらず悲しい人のままです。場所が変わってもあなたは変わらないのです。
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転々と場所を変えても、自分自身から逃げることはできない(アーネスト・ヘミングウェイ)
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以上引用です
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感想は・・・読むしかない!
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苦労して考えたことを考え直すことの大切さが分かるのと同時に、その難しさも理解できる。誰もが「答え」が欲しいし、現状がうまく機能している限り、他の答えを探すのは難しいんじゃないかな。
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かつて長い間地球を支配していた恐竜は、食物連鎖の頂点でこの世の春を謳歌していた。でも、環境の変化に適応できなくてあえなく絶滅してしまったんだよね。
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ダーウィンよろしく「強者が生き残るのではなく、変化に対応できるのものが生き残る」んだろう。
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つまるところ、自惚れるな、謙虚であれと。
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著者はただ謙虚なだけなく「自信に満ちた謙虚さ」が必要だと言っている。傲慢すぎても謙虚すぎてもあまりよくないということだ。個人的には、過小評価したくらいのほうがラクに生きれると思う(笑)
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さらに言えば GRIT(一つのことをやり抜く力)に対するアンチテーゼでもあるかなと。
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「変えてはいけないものと、変わらないといけないもの」とよく言われるけれど、おそらく変わり続けることで、変えてはいけないもの(価値観)が見えてくるんじゃないかな。
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成功を定義するのは一つではないし、幸福への道も一つではないからね。
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そのためには科学的な目線で、極論ではないグレーゾーンを含めて考えることが大事だそうだ。誰も、頭でっかちでタコつぼ化した人間にはなりたくないだろう。
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特に好きだったところを引用させてもらうと
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「私は偏見にとらわれていない」バイアスだ。自分は他者より客観的に物事を見ることができる、と信じている人がこのバイアスを持つ。賢明な人ほどこの種の罠にはまりやすい。頭のいい人ほど、自分の限界に気づかない傾向が強い。あなたが考えることを得意とするなら、あなたが考え直す力は人より劣る可能性がある。
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例えば、読書をすることで生半可な知識が増えて傲慢になったり、人を見下す人もいるよね。一方で読めば読むほど、世間知らずで時代遅れで薄っぺらい自分に愕然ともなる。
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とどのつまり、無知の知というやつだ。
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おそらく読書は謙虚になれるツールのひとつだと思うよ。様々なジャンルを読んでみるのもいいかもしれないね。
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あともう一つ印象的だったのは、自分のアイデンティティと信念を切り離すという件だ。
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自分は誰なのか、アイデンティティを問う時、あなたの信念ではなく価値観に基づいて自分を定義するべきだ。価値観とは、人生で中核となる原理である。それは優秀で寛容であることかもしれないし、自由で公正であることかもしれない。このような価値観を自分のアイデンティティに基底に置けば、柔軟な心を保ち、視野を広げるための最善の方法を喜んで受け入れられるはずだ。
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妊娠中絶反対という「信念」を持つのか、それとも命を大事にしたいという「価値観」を持つかで生きやすさは変わってくるのかもしれないね。「思想を憎んで人を憎まず」みたいなことだろうか・・いや違う(笑)
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似たような本は読んでいると思うけれど、やはり著者の本は面白かった。当分の間「アダムグラントのファン」を再考することはないだろう(笑)
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翻訳も監訳者あとがきも素晴らしく、とても読み応えがあった。「パラノイアだけが生き残る」と少し似ているかなーと感じた。
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自信というのは、知識よりも、むしろ無知から生まれることが多い(チャールス・ダーウィン)
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興味のある方はどうぞー
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