「生殖記」を読み終えた。
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ぶらっと本屋に行って発見。朝井リョウさんの新作で「これは!」とその場で購入。
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生きるを遂行することと命を使い切ることがほぼ同義な種と比べると、戦争や天才など滅多なことがない限り命を脅かされずに生きていられるヒトという種は本当に色んなことを考えていて --- 大変そうです。今、言葉を選びました。暇そうです。
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私たち生殖器も他の筋肉と同じで、長時間使用していないと衰えてきてしまうんです。だから、長時間の睡眠時でも定期的に海綿体に血液を送ることで、勃起力が低下しないよう試運転を続けているわけです。そうしておくことで、いざ本当に勃起が必要な場面が訪れたとき、スムーズに能力を発揮できるんですね。
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「SDGsは綺麗事だとか結局ビジネスだとか言う人いますけど、今鬼の首取ったようにSDGs腐してるほうがよっぽど恥ずかしいっていうか幼いですよね。どうせ何もしないんだったらせめて邪魔しないでほしいですよ、綺麗事でもビジネスでも何かしないいとどうにもならない域にまで来てるんだから。せっかく若い世代で一致団結してるのに今が良ければそれで良いみたいな感じで負の遺産だけ積み上げてきただけの人たちが足引っ張ってくるの、構造として最悪すぎて」
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大きなマットを皆で運んでいるときに大切なのは、その進行を邪魔しないこと。そのマット自体がどれだけどうでもよくても、その進路に全く納得感がなくても、それを悟られないようにしつつ、判断、決断、選択、先導を担うポジションにも就かないようにしながらただただ歩くこと。手は添えて、だけど力は込めず。
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尚成、もう知っています。会社の会議で求められているのは、議題となっている事柄の根本的な解決ではなく、予め決められた会議の終了時刻まで正しいフォームで走り続けられるかどうかだということを。そこにある監視カメラたちに、自分の共同体感覚を掲げ続けることができるかだということを。
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トリカヘチャタテのオス個体は、精子と栄養が入ったカプセルを持っているんですけど、交尾の際、それをメス個体に献上するんです。つまり交尾後、精子と一緒に栄養分まであげてしまうのでオス個体はクタクタになっているんですね。一方で、メス個体は一戦交えて栄養まで貰えるものだからむしろやる気満々、オス個体よるも早く「よっしゃ次行くか!」となるわけです。その結果メス同士の競争のほうがオス同士の競争よりも激しくなり、交尾に関しても自然とオス個体よりもメス個体のほうが積極的になっていったんです。
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そう。尚成という個体には、経済的自立の「次」がないんです。
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ここ最近は異性愛個体側からゴーサインを貰うために色んな活動が行われていますが、そもそも同性愛個体同志が婚姻関係を結ぶためにどうして異性愛個体の許可が必要なのでしょう。異性愛個体同士の結婚に同性愛個体は賛成も反対もしていないのに。そんな余地もないのに。
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尚成、自分なりに解釈してしまったんですね。いくらヒト以外の種の生態と照らし合わせても、ヒトという種の中で様々な例を提示してみても、最終的に問われるのは異性愛個体を主軸に常に拡大、発展、成長を続ける資本主義的共同体にとっての意味や価値や生産性であるということを。
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共同体感覚と幸福度の関連性を完全に断ち切らなければ、どこかで「これが一体何になるのだろう」という虚無や絶望を引き寄せてしまうため要注意です。ダイエットと似たところで言うと、美容を監視カメラとした個体もこのケースに陥りやすいですね。「こんなに自分のことにだけ時間と労力を割いて、私って一体」と、そのうち不幸を認知し始めるのが関の山です。そのような状態に陥った個体は大抵、共同体感覚を強める方向に舵を切ります。「世の中に正しいダイエット知識を広めたい」「美容で悩む人を助けたい」的なアレです。
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結局はこちらに生産性があるのだから同性愛個体はお静かに諭されるようなこの共同体って、モラハラ大黒柱に支配されている家みたいな感じなんですよね。こっちは稼いでいるんだから言うことを聞け、こっちは共同体の個体数を確保しているんだから言う事を聞け。うん、似ています。その過程にいくら同性愛個体が関わっていても --- たとえそうだと公言していない同性愛個体が多くの次世代個体の命を救う仕事に就いていたとしても --- 異性愛個体からすれば「生産性がない」となるこの感じ、いくら家事をしたところで生活費を稼いでいるのはお前じゃない、という言い分に近いものがあります。
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以上引用です
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社会に対し冷静かつ合理的な主人公がふとしたことをきっかけに熱く積極的な生き方に目覚める、みたいな流れは健在だった。
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著者の作品のベースだと感じている。大好きなところだ。
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今の時代「色々な人がいて、様々な考えがあるものだ」から一歩踏み込のは相当なエネルギーが必要だと思う。昭和の生きにくさから令和の生きにくさみたいな。それはそれで疲弊してしまう。
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それでも、勇敢でポジティブで何ら共同体感覚を蔑ろにすることなく前向きな人生を模索している実は同じような年齢の、同じような性的指向の人物が身近にもいるわけで。だからいいんだよ。
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お菓子作りを続けていけば料理の腕も上がり、美味しいカヌレも作れるようになるだろう。継続的に筋トレしてプールで泳げば、体脂肪率は減り筋肉量は上がる。
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単に時間の消費と侮るなかれ、それは立派な自身の拡大、成長に繋がるんじゃないかな。
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暇つぶしでもいいじゃない、経済的に自立して税金を納めて法を犯さず過ごしているんだから。
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ちなみに体外発生の件は「セックスロボットと人造肉 テクノロジーは性、食、生、死を征服できるか」が面白い・・・
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と思っていたら、巻末に引用本として記載されていた。
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あとはこの辺が。
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小生、いや自分はヘテロセクシャルだけれど尚成の人生に近い。そんな人たくさんいると思うよ。
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かなりチャレンジングなので読んでみて欲しい!
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